映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、巨匠の名作をゆっくり見直しました。
タルコフスキー『僕の村は戦場だった』
最もリラックスできる音はと言えば、雨の音。シトシト、ピチャピチャ、ポツリポツリ。
心地良くて眠気を誘う。ウトウトするのも良いのだけど、映画を観ている時は、この心地
良さが困る。最初から最後までしっかり鑑賞したいのに、どうしても眠くなってしまい、
途中ウトウトしてしまうのだ。それが頻発するのが世界の巨匠アンドレイ・タルコフスキ
―の映画。コロナで外出を控えている間に、なぜかふと、この機会にタルコフスキーを制
覇しようと思い立った。
フィルモグラフィ順にいって第2作目(本当は3作目)の『僕の村は戦場だった』。独ソ戦を
背景に、家族を失った12才の少年イワンが、失われた平和な日々を夢の中で辿りながら、
現実にはナチス・ドイツを憎み、パルチザンとして諜報活動をする。彼を安全な学校へ入
れようとする大人たちの思いも空しく、イワンは子どもにしかできない方法があるとし、
最前線に忍び込む。やがて平和が訪れるが、イワンが帰って来ることはなかった。
1962年、ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、タルコフスキーの初期作品として有名
なものだ。大きな蜘蛛の巣越しに映される少年イワンのあどけない顔からはじまり、美し
く平和な自然の中をイワンが空中を駆ける。素晴らしいファーストシーン! 最後の海を駆
けるシーンとの対比もあって、素晴らしさ倍増だ。深田晃司監督の『海を駆ける』は、タ
ルコフスキーの影響を受けているに違いない。12歳の少年を軍の将校と同じレベルの設定
にしているところが戦争の恐ろしさを象徴する。戦闘場面は多くなく、その痕跡に見られ
る残酷さと、平和だった母との日常の対比、少年のあどけなさと憎しみ籠る眼差しの対比
が凄い。昨年大評判だった『異端の鳥』が残酷さをエンターテイメント化していたのに対
して嫌悪感を持ったが、こんなにも美しいシーンの数々を通して戦争の残酷さを表現でき
るタルコフスキーの凄さに、改めて眼を開くことができた。
『僕の村は戦場だった』
1962年/94分/モノクロ/スタンダード/ソ連
監督 アンドレイ・タルコフスキー
脚本 ウラジーミル・ボゴモーロフ(原作も)、ミハイル・パパーワ
撮影 ワジーム・ユーソフ
美術: エフゲニー・チェルニャーエフ
音楽: ヴャチェスラフ・オフチンニコフ
出演 ニコライ・ブルリャーエフ、ワレンチン・ズブコフ、イリーナ・タルコフスカヤ