映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、おばあちゃんの愛にやられたようです。




『おばあちゃんの家』


2年かけて準備していた映画祭を2週間後に控えたタイミングで、緊急事態宣言が発令

されてしまった。映画祭は延期せざるを得ず、上映作品関係者、スポンサー各社、ゲ

スト、スタッフ、ボランティアへの連絡に奔走する。不要不急ならぬ不眠不休の作業

続きだった。


疲れ果てていたところに入ってきたのが、『おばあちゃんの家』でおばあちゃんを演

じたキム・ウルブンさんの訃報だった。本作一本でしか知らない女優さんだったが、

それもその筈、全くの素人で映画を観たことさえない人だったらしい。あまりの懐か

しさにアマゾン・プライムで視聴。映画の感動に女優の訃報が重なって、涙腺が崩壊

してしまった。


映画は、大都会で何不自由なく暮らしていた男の子が、母の都合でしばらく田舎のお

ばあちゃんに預けられることになるところから始まる。おばあちゃんはみすぼらしい

家に一人暮らしをしていて、耳が殆ど聞こえず、話すことも出来ない。我儘いっぱい

に育った男の子にとっては耐え難いほどに貧しい環境だ。おばあちゃんに悪態をつき、

いじわるの限りを尽くす男の子…いや、悪ガキ。対するおばあちゃんは、孫の全てを

受け止め面倒を見る。そんなおばあちゃんに、さすがの悪ガキも心動かされ、やがて

来る別れの時には…。小道具利用の見事なラスト。


結果的にこころ温まる必涙の映画なのだけど、男の子の悪ガキ度がとにかくスゴい。

おばあちゃんを罵るはバカにするは、挙句の果てにおばあちゃんの靴(恐らくは唯一

のもの)におしっこをかける。やんちゃとかガキんちょなんてものではない。もう悪

ガキ、くそガキのレベルだ。ここまでの悪ガキは、映画の中でもなかなかお目にかか

らないから、ある意味突き抜けていて爽快だった。そんな悪さの極みに主人公を持ち

上げたからこそ、ラストの愛情表現にやられてしまうのだ。良い子に育てよ、悪ガキ。


2002年/ 87分/韓国
監督・脚本 イ・ジョンヒャン
撮影 ユン・ホンシク
音楽 キム・テホン
出演 キム・ウルブン、ユ・スンホ、ミン・ギョンフン





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