映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史は観るつもりがなかった作品でした。
『花束みたいな恋をした』
タイトルを見てこれは観ないなと思った。きっと甘ったるくて虫歯になりそうだ。
キラキラ過ぎて飛蚊症が悪化しそうだし。←しません。
ところが知り合いの監督(無骨なおやじタイプ)が「良かった〜」と言って幸せ気分
に浸っている。となると観ない訳にはいかない。
かくしてまた主体性のない映画鑑賞をすることになってしまった。
主人公は終電を逃したことで知り合った麦と絹(21才の設定)。お互いの趣味が似て
いて意気投合し、二人の関係はデートから同棲へと発展する。5年の月日が二人の
関係を徐々に変えていくと、当然就職や結婚の話が浮上し…。
あらすじは決して珍しくない内容、と言うか、現代の若者の平均値をとったような
印象がある。だけどそんなストーリーを見応えあるドラマに仕立て上げる力技、細
工、仕込みに唸った。脚本はTVドラマ『東京ラブストーリー』の坂元裕二で監督は
映画『罪の声』の土井裕泰だ。
まず出会いの場面からしてさり気なく上手い。麦と絹は終電を逃したことで出会う
のだけど、そのまま急接近はしない。麦くんはナンパなどしない系男子なのだ。で
もそれでは映画の話が進んでいかない。そこで登場するのが同じく終電を逃したサ
ラリーマンとOL風の大人二人だ。大人は判断が早い。「深夜営業の店に行くしかな
いなぁ」と言い、あっという間に麦と絹を巻き込んで行く。主体的に出会った訳で
はない二人は、それを機に急接近する…ように見えるが、それは行動だけで、心に
はまだ少し待ったがかかる。脚本の坂元氏、2人に敬語を使わせているのだ。絹が
麦の部屋に行っても、敬語を使って距離を保っている。この距離感があっての会話
が面白い。二人は本や映画、漫画、音楽など文化を共有し合うのだけど、きっとそ
れは多くの観客をも巻き込むだろう。押井守の出演シーンなどは、アニメファンに
はまるで神の出現だったに違いない。二人とも本の栞に映画のチケットを挟んでい
るところなどは、思わず心の中で「私も!」と叫んだ。こんな遊びも散りばめられて
いて映画の世界に引き込まれる。冷静に思い返すと、本作はあの大ヒット作『ラ・
ラ・ランド』と似ている。主人公たちは、共に過ごした花束の様な時間にピリオド
を打ち、それぞれの道を歩んでいく。花束の美しさは、切り取ったばかりの一瞬が
絶頂で、後は徐々に枯れていくのだ。その一瞬の尊さが込められたタイトルだった
のかもしれない。
『花束みたいな恋をした』
2021年/ 124分/日本
監督 土井裕泰
脚本 坂元裕二
撮影 鎌苅洋一
出演 菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太