映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、楽しさの大きさだけ後悔も大きかったようです。




【ソウルフル・ワールド】


ピクサーのピート・ドクター監督作品は、何を観ても面白い。『モンスターインク』、

『カールじいさんの空飛ぶ家』、『インサイドヘッド』など、どれも大人が泣けるア

ニメだ。新作も劇場公開時に観ようと思っていたのに…。忙しくて(と、言うか上映

館が少なくて)見逃してしまった。仕方なく、スマホ料金変更の際にボーナスとして

くっついて来たディズニー+で観る。やりたくなかったパソコンでの初見だ。結果、

やはり劇場で観たかった〜と思いっきり落ち込んだ。


プロのジャズピアニストを目指すしがない音楽教師ジョーが、ある日有名バンドから

仕事のオファーを受ける。ところが喜びも束の間、浮かれてマンホールに落ち、異世

界へ入り込んでしまった。そこは生まれる前の魂たちが個性を与えられる場だ。ニヒ

リズムに陥り生まれたくない子の魂と、まだ死にたくないジョーとの間で駆け引きが

始まる。誤って二人ともこの世に落ちて行くが、思わぬハプニングが起こり、おかし

な冒険が始まる。


ピート・ドクターの作品はアニメと言っても大人向けだ。本作も夢叶わない辛さを知

る大人こそが最大限作品世界に入れるのかもしれない。そしてたとえ夢が叶ったとし

ても、そこは無限ループの世界。その次はどうする?次は何をすればいい?と、生き

ている以上ずっと続くこの問いに追われる。夢とは何か、生きる目的とは…。生前、

現在、死後の世界をまたぐ壮大な物語に、哲学や宗教的なテーマが据えられ、こんな

に重い内容だったのかと驚く。しかし深遠なテーマも、登場人物たちが面白おかしく

ドタバタを演じてくれるから、案外子どもたちも楽しめるのかもしれない。重要な役

割として出てくる猫の習性描写などは老若男女問わず大いに笑うだろう。

異界の指導者たちがまるでキュビズム時代のピカソの絵みたいで面白い。ピカソは、

絵画と言う二次元の世界に多角的な視点を盛り込み、次元の縛りを超越したが、本作

は更に次元を追加して見せた。

それにしても劇場で観損ねたのが悔やまれる。音響の良い劇場で観られたなら、素晴

らしい音楽体験にもなったのではないだろうか。そして作り手はそれを願っていたは

ずだ。私は決してジャズに詳しいわけではないけれど、どうもジャズ好きにはたまら

ない音楽(演奏)が使われているらしい。


『ソウルフル・ワールド』
2020年/ 101分/アメリカ
監督 ピート・ドクター
脚本 ピート・ドクター、ケンプ・パワーズ
撮影 マット・アスプリー、イアン・メギッベン
音楽 トレント・レズナー、アッティカス・ロス
声の出演 ジェイミー・フォックス、ティナ・フェイ


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