映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、よくいがちなおじさんに余裕で対処しました。
【ホワイト・バランスの思い出】
映画が趣味だと言う人は、殆どが映画を作るのではなく観るのが好きな人たちだろう。
ところが私は、映画を観続けているうちに作りたくなってしまった。大学時代は映画理
論・評論を専攻し、在学中に一度も映画を”作る”ことなく卒業してしまったものだか
ら、社会人になって16mmフィルムでの映画作りを実践できる映画美学校に入った。そ
こで撮影を教えてくださったのが大尊敬する宮武嘉昭さんと、後に映画『太陽と月と』
(日本国憲法に関するドキュメンタリー)のワシントンや五日市ロケでお世話になった内
藤雅行さんだった。
それまで安全管理のための機材の扱い方など考えたことも無かったけど、撮影をストッ
プさせないための姿勢を持つのが本物のプロだと、その世界の凄さに背筋が伸びた。レ
ンズの種類と使い分け、露出の決め方、ピントやホワイト・バランスの合わせ方など教
わると、これが面白くて面白くて。調子をこいた私は早速ビデオカメラを買い、自ら撮
影を始めた。教わったことを実践したものは、やはり以前撮ったものとは格段に質が違
う。そのうちビデオ撮影の仕事が入って来るようにもなった。現場には、万が一ガラス
や大理石の壁に自分が映り込んでも目立たないように、上下黒めの服で臨む。これも教
わったことだ。
ある時、講演の撮影を頼まれ、カメラの準備をしていると、年配のおじさまが寄ってき
た。徐に自分のノートを取り出し、カメラの前にかざして「始めにホワイトバランスを
こうやってとるんだよ」と説明し始める。おじさんは私が全くカメラマンに見えず、な
おかつ完璧なおばさんなので、ビデオなどまともに撮れないと不安になったようだった。
どうしよう…困った。ありがたくない。ホワイトバランスを合わせるのに罫線や文字の
書かれたノートを使うべきではないし、カメラの真ん前にノートをかざすべきでもない。
照明の設定が終わった時点で、被写体の顔の前にかざして合わせるべきなのに…。この
親切なおじさんに恥をかかせたくないけど、心を鬼にして、正しい方法でホワイトバラ
ンスを取りなおした。この時のクライアントであるこのおじさんのためにも、だ。