映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史は、男装の麗人に魅力を感じたようです。




【サファイア、オスカル、イェントル、アルバート】


FBで何人もの人から届いたメール。一週間毎日1冊の本の表紙を、何の説明もせずた

だアップしようという読書推進活動だった。


まず一冊目に『短い金曜日』を選ぼう。この中に『イェシバ学生のイェントル』とい

う短編があり、これはバーブラ・ストライサンドの主演映画『愛のイェントル』の原

作だ。

厳格なユダヤ教の世界で、女性として生きるより、男性の様に学問の道をと願う少女

の話。男装して願いを叶えるが、学友を愛してしまい…というものだった。


思い返せば、私は子どもの時分より男装する女性の話に魅かれる傾向があった。一つ

はカッコ良さに、もう一つは哀しさに引っ張って行かれたのだと思う。前者の代表が

『リボンの騎士』のサファイアと『ベルサイユのばら』のオスカルだ。この二人は男

装の麗人として子ども心に随分憧れたものだ。特にオスカルは剣術に長け、強く、フ

ランス王妃マリー・アントワネットとの対比によって余計にカッコ良さが浮き立って

いた。哀しいのはイェントル。勉学の自由を求め、ユダヤの戒律を破って男装までし

て生きた女性だ。それでもイェントルは自分の意思を貫いたのだから、女性としては

不孝でも人間としては幸せだったのかもしれない。


タイトルの最後に挙げたアルバートは『アルバート氏の人生』の主人公。19世紀のダ

ブリンで、身寄りがなくウェイターとしてしか生き残る術を持たない女性の話だ。た

だただ生きるために女性であることを必死に隠し、いつしか自分のアイデンティティ

を見失って引き返すことすらできなくなる。一度だけ女性に戻ろうと、ドレスを着て

みるが、ドレスによって余計に男性性が浮き出てしまうパラドックスがやりきれない。

あまりにも哀しい悲しい物語だった。アルバートを演じたグレン・クローズが東京国

際映画祭で主演女優賞を獲得している。


『アルバート氏の人生』
2011年/アイルランド/113分/カラー
監督/ロドリゴ・ガルシア
脚本/ジョン・バンヴィル、グレン・クロース、ガブリエラ・プレコップ
音楽/ブライアン・バーン
出演/グレン・クロース、ミア・ワシコウスカ、ジャネット・マクティア


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