コメディ『生きるべきか死ぬべきか』
『生きるべきか死ぬべきか』というタイトルは、言わずと知れたハムレットのセリフ。
そして映画はお芝居の話だ。劇中2つの演目が出てきて、一つは『ハムレット』もう一
つは『ゲシュタポ』。どんな悲劇か惨劇かと思われるかもしれないが、実は私の大好き
なビリー・ワイルダー監督のお師匠エルンスト・ルビッチが作った映画史に残る傑作コ
メディなのだ。
1939年のワルシャワ。マリアとジョセフ夫妻の所属する劇団が『ゲシュタポ』という芝
居の準備をしていると、ナチスを刺激するとして政府から上演中止の命令が下る。仕方
なく十八番の『ハムレット』を上演するが、毎回ハムレットを演じるジョセフが「生き
るべきか死ぬべきか」と言うタイミングで、マリアのファンを名乗る青年がマリアの楽
屋を訪れる。2人が逢瀬を楽しみ、ジョセフが焼餅を焼いている時に、ナチスのポーラ
ンド侵攻が始まり、青年とジョセフたち劇団員が危険な大芝居を打ってイギリスへと逃
れる。
脚本、演技、演出の三本柱が揃って素晴らしい。巧みなシチュエーション作りで笑わせ、
騙し・欺きの連発でハラハラドキドキさせられる。そこまで省略するかと唸るほど、ス
トーリーの飛躍はお見事。大いに勉強になる。
夫ジョセフを演じるジャック・ベニーは20世紀のアメリカ芸能界を牽引したコメディア
ンらしく、とにかく顔技が素晴らしい。妻マリアを演じるキャロル・ロンバートもスク
リューボール・コメディの女王と呼ばれた人気女優だった。2人のちょっとくすぐった
いコンビが、浮気話でありながらも安定した夫婦像を見せてくれる。
もう一つ面白いのは、影の主役がヒットラーであるという事だ。一度も本物は出てこな
いのに、やたら威圧感があるあたりは、ヒッチコックの『レベッカ』を思わせる。
ナチス・ドイツに市民権をはく奪されたルビッチが、1942年、ヒットラーの存命中にこ
んな映画を作ったとは!驚くばかりだ。
『生きるべきか死ぬべきか』
1963年/アメリカ/99分/モノクロ
監督/エルンスト・ルビッチ
脚本/エドウィン・ジャスタス・メイヤー
撮影/ルドルフ・マテ
出演/キャロル・ロンバート、ジャック・ベニー |