映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、自宅ストックの映画に意外な発見がありました。




オードリー・ヘプバーンの『初恋』


この二ヶ月ほどで、仕事が激変してしまった。主に新型コロナウィルスの影響だ。映

画館に行くこともできず(自主規制して)、良いチャンスとばかりに家にあるビデオや

DVDを整理することにした。中にはなぜ持っているのか全く覚えの無いものもあり、

そのうちの1本が『初恋』だった。


94分と短かめなので、早速チェックすることに。これだから片づけはいつも中断する

のだが…。あっさり誘惑に負けて観た『初恋』は、想定外の面白さだった。タイトル

に騙されてはいけない。オードリーが主役の甘酸っぱいラブストーリーかと、きっと

誰もが思うだろう。しかし、そんなものでは全くないのだ。因みに英語タイトルは

『Secret People』と、怪しい。


物語は、平和主義の活動家だった父を殺された姉妹が、殺人集団と化した反政府組織

の計画に巻き込まれていく。姉妹の人生が鳴門の如く(笑)かき回され、ジェットコー

スター式に展開する話は息つく暇もない。最初の10分間で、主な登場人物の相関関係

や性格描写がきれいにこなされてお見事! オードリーはこの翌年『ローマの休日』

で主役デビューするのだけど、本作では”パリの休日”を楽しむ。しかも、カフェの

シーンに『ローマの休日』と同じ構図があったのには驚いた。他にも『第三の男』と

似た場面や、全体的にはヒッチコック作品を連想させる場面が結構あり、サスペンス

映画好きはきっと喜ぶだろう。

オードリーは妹の方で準主役。暗いサスペンスに、美しいバレエを披露して輝きを見

せてくれた。やっぱり妖精だなぁ。主役は姉のヴァレンティナ・コルテーゼ。少し老

けて見えるけど、品が良く演技が素晴らしいところは、エマ・トンプソンを思わせる。

調べてみると、フェリーニやゼフィレッリなどの作品に出演している、結構な実力派

女優だった。去年、96歳で亡くなっていた。この機会に他の出演作も観てみよう。


オードリー・ヘプバーンの『初恋』
1952年/イギリス/モノクロ/94分
監督/ソロルド・ディキンソン
脚本/ソロルド・ディキンソン、ウォルフガング・ウィルヘルム
撮影/ゴードン・ダインズ
出演/ヴァレンティナ・コルテーゼ、オードリー・ヘプバーン


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