映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、迫力に感心しつつ知らずに制作側の技を推察のようです。
『1917命をかけた伝令』
1917年、第一次世界大戦末期の西部戦線。2人の若いイギリス兵に、作戦中止の伝令を
前線部隊に届けるよう指令が下りる。さもなくば敵の戦略に嵌り、1600人が全滅しかね
ない。その中には兵士の兄も含まれていた。
戦場を走り抜け伝令を届けるという内容では、メル・ギブソン主演の『誓い』があった
し、一人の戦士を救う点ではスピルバーグの『プライベート・ライアン』とも共通する。
どちらも素晴らしい映画だったなぁ。
本作に戦闘シーンはあるものの、あまり敵を見せず、いつどこから何が襲ってくるかわ
からない恐怖と、放置されたままの夥しい死体に震え上がる。戦場では流木も死体も同
列だ。武器を持つ人間も、死ねばネズミやカラスに喰われる。描写は残酷すぎるほどリ
アルだった。だからこそ挿入される赤ちゃんのシーンに命の輝きを感じ、讃美歌を聴く
戦士の休息にこちらまで束の間の癒しを体験できる。
タイムリミット設定された上での戦場突破にハラハラドキドキさせられるし、美術セッ
トも照明の動きも凄い。地獄絵図の中に連れ込まれたような感覚を味わう、と言えばよ
いか…。
全編がワンカットで構成されているとの触れ込みだけど、夜を超すわけだから、当然夜
中の時間を省略しなければならない。そのために設定されたであろうシーンが、怪我に
よる意識喪失だ。気絶している間の時間を飛ばすためにフェードアウト/インが使われて
いた。わかり易く入っていたから、制作側は長回しをやっただけで、全編をワンカット
にする意図はなかったのだろう。画面いっぱい煙が立ち込める場面などあると、
「あっ、ここで編集したな」などと考えてしまったりする。もっと素直に映画を観たい
ものだなぁ。
『1917命をかけた伝令』
監督/サム・メンデス
脚本/サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン・ケアンズ
撮影/ロジャー・ディーキンス
出演/ジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ・チャップマン、コリン・ファース、ベネディクト・カンバ―バッチ
2019年/イギリス・アメリカ/カラー/119分