映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、若手監督の注目作品に感心と賛同のようです。




『新聞記者』


映画が終わって拍手が起こることは、日本の劇場上映では珍しい。しかし新宿ピカデリー

での夜の上映後にそれが起こった。最近話題の『新聞記者』だ。公開当初は、入りが悪い

し客層はお年寄りばかりと言われていた。ところが行ってみると、昼間は満席で入れない

し、二時間後に再挑戦してもダメ。三度目の正直で夜に行ったらかろうじて前の方の席が

取れた。案外若い人が多く、更に驚いたのは上述の拍手だ。


東京新聞の望月記者の著作がベースとなっており、未読の私を含む多くの人が、新聞記者

の奮闘記だと予想していただろう。しかし実際はそうでもない。ニュース映像を見せ、思

いっきり現実に起こっている事を匂わせながらも、現実の社会問題を外向きに叫ぶ内容に

はなっていなかった。この映画は「あなたはどうするのか」と、思考停止に陥ってる私た

ちの内面に鋭く問いかけるものだ。選挙前ということもあって、ちょっとしたセンセーシ

ョンを巻き起こしているのも頷ける。


監督の藤井道人さんは、まだ随分若い。昨今の若手監督は身の周りの日常をよく描くが、

そんな中にあって、これぼど骨太な映画を作ったのは凄い。それだけで嬉しくなったが、

脅迫とか上映妨害とか起こらないかと心配にもなった。今のところ大丈夫なのかな。

こんな風に若手監督が注目を浴びると、必ず出てくるのが同業者のやっかみだ。早速SNS

上でも「内閣情報調査室についてよくわかってない」とか、「内容が薄い」とか言う投稿

がブンブンうるさい。そう言っている人の作品はもっと内容が薄かったりするのに…。人

の才能をやっかむ暇とエネルギーがあったら、それを全て自作に注ぎ込んでほしいものだ。


是枝監督の言葉を引用しよう。「これは新聞記者という職業についての映画ではない。人

が、この時代に、保身を超えて持つべき矜持についての映画なのだ。」


『新聞記者』
監督 : 藤井道人
脚本 : 詩森ろば 高石明彦 藤井道人
原案:望月衣塑子「新聞記者」(角川新書刊) 河村光庸
音楽:岩代太郎
出演 : シム・ウンギョン 松坂桃李 田中哲司
2019年/113分/カラー


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