映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史がより追悼したい人はあっちよりこっちのようです。
さようならアニエス・ヴァルダ
3月29日、Yahooニュースでは26日に亡くなったショーケンの話ばかりがニュースに
なっていたけど、私のSNS繋がりの投稿は、専らアニエス・ヴァルダ(享年90才)の訃報で
埋め尽くされていた。
知る人ぞ知る、知らない人は全く知らないこのおばあちゃん、フランスの偉大な映画監督
であり、『シェルブールの雨傘』の監督ジャック・ドゥミーの妻でもあった人物だ。ヌー
ベルバーグの祖母とも言われる、本当に偉大な女性監督なのだ。
有名な作品は、65年にベルリン国際映画祭で銀熊賞に輝いた『幸福』と、62年の『5時か
ら7時までのクレオ』だろうか。こちらは病院に検査結果を聞きに行く前の、クレオの二
時間を描いており、癌ではないかという恐れを持ちながら街中をさ迷い歩く。随分前に観
たので詳細は覚えていないが、体の不調を感じるたびに癌を疑う年齢となった今、再見す
ると以前より深く作品世界に入り込めるのかもしれない。きっとアニエス・ヴァルダ追悼
特集上映がどこかで組まれそうだから、また劇場で観よう。因みにこの映画は、先日亡く
なった巨匠ミシェル・ルグランが音楽を担当していた。
17年にはアーティストのJRという、アニエスより50才以上若い男の子(と言っても若い子
からすればおじさんか)との共同監督/出演のドキュメンタリー映画『顔たち、ところどこ
ろ』があった。各地の農村を大きなトレーラーで旅し、地域住民の写真を撮ってそれを拡
大、巨大なポートレイトにして本人の家や所有する建物に貼りつけるというプロジェクト
だった。びっくり仰天の大きさで、2階建ての壁一面が持ち主の顔になったりしている。
やっている本人たちも、見ている私たちも楽しいことこの上ないが、受け入れる方はよく
こんなことを許可したものだ。でもこれがドキュメンタリー作家の腕の見せどころであり、
面白さでもある。不思議なことにこうしてポートレイトを壁に貼り付けることで、そこに
暮らす人の人生が浮き彫りにされ、人生賛歌したくなってくる。アニエス・ヴァルダと
JRに感謝!!