映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史もやっぱり、例の人気あだ討ち劇が好きなようです。




12月に観る映画


毎年12月にはクリスマスの映画を観たくなるが、今年は趣向を変えて、和でいこう

と思った。

日本の12月と言えばなんと言っても忠臣蔵だろう。『元禄忠臣蔵』、『最後の忠臣

蔵』、『赤穂浪士』、『四十七人の刺客』、さらにキアヌ・リーブスの『47RONIN』

なんて異色作もある。TVドラマも含めると100本ぐらいは作られていないだろうか。


そして今年また一つ、新作が公開された。『決算!忠臣蔵』だ。タイトルを見ると、

最近ありがちなコメディ時代劇かと想像する。賛否両論あるが、私は『超高速!参勤

交代』など大いに楽しんだクチだから、期待値が大きかった。


大石内蔵助を堤真一が演じ、勘定方の矢頭を岡村隆史が演じる。きっと関西弁だ。赤

穂は関西だから浪士たちは関西弁を話していたはず。地味なところでリアルさが出る

か…。

ストーリーは有名だから、どこに新鮮味を盛り込むかが肝心だ。本作は、日本人の心

に浸透している忠臣の美談を、生々しい現実のお金のやり繰りに焦点を当てつつ描く。


鑑賞後感としては、面白かったが不満も。泣かせる場面を作った事はいただけなかっ

た。チャップリン流にユーモアとペーソスをうまく盛り込むならいいが、ストレート

な悲劇的シーンの挿入は違和感しか生まない。寧ろコメディとしては減点ポイントと

なった。また、主人公大石内蔵助のキャラクターに魅力が欠けていたことも不満の一

つ。実像に少し近づいていたのかもしれないが、遊郭通いの軽薄さが強調されていて

いただけない。出すなら一度だけでいい。そして内蔵助の凄さを見せる場面も欲しか

った。そのための堤真一の起用ではないのか!主人公には意外性を持たせてキャラクタ

ーに厚みを加えないと引き込まれない。


・・・と、ボロクソ言っているが、トータルでは楽しめた。岡村隆史をしっかり者に

仕立て、荒川良々をまさかの堀部安兵衛にしたのには驚いた。バカ殿やダメ男役ばか

りが目立つ妻夫木聡も今回はキリリ。石原さとみのド迫力にも圧倒される。そして何

より、忠臣蔵のお財布事情が現代の感覚でわかる作りが嬉しい。予算削減のための工

夫など笑えもするし納得もできる。赤穂浪士が火消しの衣装を着ているのも、討ち入

りに時間がかかったのも、こんな事情があったのかと。忠臣蔵と言えば討ち入りシー

ンは必須のはずが、全く描かれない潔さは天晴れ!内蔵助が闘う相手は、まず身内から

なのだった。


原発問題や権力の暴走をしっかり匂わせる『超高速!参勤交代』の骨太さには敵わない

が、面白い経済時代劇だった。


監督・脚本/中村義洋
原作/山本博文
美術/倉田智子
音楽/高見優
2019年/125分/カラー
/宮本信子


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