映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
忘れられない小さな会話。



モントリオールの想い出


『12人の優しい日本人』や『櫻の園』の中原俊監督にまつわる話。

20年近く前、中原監督の新作『カラフル』がモントリオール世界映画祭のコンペ部門

に招待されたとき、私もモントリオールに行っていたので、お会いした事がある。

『櫻の園』が大好きだった私は、あの中原監督に会えただけで有頂天になっていた。


サイン欲しいなぁー。でもそんなことしたらプロデューサーに叱られそうだなぁー。

そんな事を考えながらぼーっとしていたら、「ポケッとするな!」とプロデューサーに

叱られた。


諦めてホテルの部屋に戻り、夜中まで仕事をしていたら、映画祭の事務局から電話が

かかった。

「明日そちらの監督の記者会見をすると言ったけど、中原監督の間違いだった。ごめ

んなさーい」と言う。こちらの監督の名前がちょっと似ていたので間違えたらしい。

こんな夜中に・・・と思っていたら、次の一言で一気に眠気が吹き飛んだ。


「ついでに中原監督にもそう伝えてもらえない?」


先方のプロデューサーと連絡がつかなかったらしい。

中原監督と話ができる!!! 事務的な事だけど、この際何でもいいや。昼間のパーティ

では結構近くにいたのに、一言も話せなかったのだから・・・。

でも、待てよ、もう真夜中だ。ひよっとして非常識だと叱られるかもしれない。映画

監督って、基本コワイからなぁ。

プチ勇気を振り絞って電話すると…

とても穏やかに対応してくださり、「わざわざありがとう」とお礼まで言ってくださ

った。

以来、私は中原監督を「13人目の優しい日本人」と呼んでいる。


『櫻の園』1990年版
監督:中原俊
脚本:じんのひろあき
撮影:藤澤順一
主演:中島ひろこ


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