映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれることになりました。
映画好き女史の究極の答。



一番好きな映画は?


よく聞かれる、困った質問。

好きな映画が多すぎて、一本だけ選ぶのは至難の業なのだ。


無理矢理一本選ぶために、質問を変えてみよう。

「人生最後に観たい映画は?」


ならば『トップハット』。

呆れるほどばかばかしいラブストーリーをミュージカルにしたもので、フレッド・

アステアとジンジャー・ロジャースが歌い踊る。


繰り返すが、ふざけているのかと思うほどばかばかしい。

でも、優雅な踊りと優しい歌に、辛い現実を忘れさせてくれる不思議な癒しの力が

宿っているのだ。


『カイロの紫のバラ』で、傷ついた主人公を癒すのはこの映画だった。

『グリーン・マイル』で死刑囚が最後に望んだのは、活動写真を観ること。そして

観た映画が『トップハット』。

最近ではアニメ『ボス・ベイビー』の冒頭に、『トップハット』の映像こそ出てこ

なかったものの、「チーク・トゥ・チーク」というナンバーが使われていた。


アステア作品が引用されている映画は意外に多いし、パロディまで含めれば、相当

な数に及ぶだろう。

近年大ヒットした『ラ・ラ・ランド』の星空で踊るシーンも、元は『踊るニューヨ

ーク』での見事なダンスだ。

ただ、アステアのパートナーは、ジンジャー・ロジャースではなくエレノア・パウ

エルだったけれど…。


ファドの女王アマリア・ロドリゲスは、ツアーに出かける時、必ずアステアのビデ

オを持って行き、寝る前に観ると言っていた。


そして、誰よりアステアを愛していたのは、マイケル・ジャクソンだろう。

踊りや衣装にその影響が見て取れるばかりか、自書『ムーンウォーク』はアステア

に捧げられている。


こう書いているうちに、ふと思った。

結局のところ、一番好きな映画は『トップハット』なのかもしれない。


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