映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画祭に係わって忙しい中の女史、大好きな作品も楽しめたようです。
お熱いのがお好き
2018年10月25日から11月3日まで、六本木、有楽町、日比谷を舞台に、第31回東京国際
映画祭が開かれた。世界中から1800本を超える作品の応募があり、コンペティション部門
に選ばれた16本を含む181本もの映画が上映された。
映画祭で働くことで世界中から集まってくる映画人と会えるのは、映画好きにはたまらな
いことなのだけど、唯一辛いのは映画を観られないこと。人に映画を見せている側だから、
自分たちは観られないのだ。あー、目の前の劇場で垂涎ものの作品が上映されているのに
…。「クビになってもいいから抜け出して観たい!」と何度思ったことか。
ところが今年は珍しくもとても観たい映画を観ることができた。その一本はコメディの金
字塔『お熱いのがお好き』。1959年製作のビリー・ワイルダー監督作品で、ジャック・レ
モン、トニー・カーチスとマリリン・モンローが出演している。禁酒法時代のアメリカで
起こった聖バレンタインデーの虐殺が時代背景としてある。虐殺場面を目撃したバンドマ
ンたちが、女装して女性だけのバンドに紛れ込み、ギャングの追っ手から逃れる。あり得
ないドタバタ・コメディなのだけど、脚本が素晴らしく、笑いもするが「うまいなぁ」と
唸る場面も多い。セリフがまるで小道具のように使われていて勉強になった。
1959年制作だし、マリリン・モンローが出ているとなれば、普通はカラー作品になるとこ
ろだろう。しかし本作は敢えてモノクロ作品として撮られている。ジャック・レモンとト
ニーカーチスの二人が女装するのだから、これがカラーだったら…グロテスクで苦情が殺
到したことだろう。ワイルダー監督の判断は正しかった。マリリン・モンローがただのセ
クシー女優ではなく、最高にキュートなコメディエンヌとして才能を開花したのも、ワイ
ルダー監督の功績だと思う。