3/19のしゅちょう             文は田島薫

(吉本隆明について)

吉本隆明さんが先日87才で亡くなった。私が学生の頃、その頃の若者たちにとって、

彼は思想的スーパースター、って感じで私の周囲で彼の「共同幻想論」を読んでない

者はまずいないほどだった。学生運動の時代で、社会的問題意識、ってことをいつも

だれかに問われているような脅迫観念を持ち、理論武装、って言葉も常に聞かれ、私

もその流れの中で、何冊も彼の本を「古本屋」で買い求め読んだ。といっても、詩人

でもあるだけにその頃の表現はかなり抽象的で私には難解で、完読したものはほとん

どなかったんだけど、それでも、男女の社会関係や国家も幻想であること、われわれ

が当たり前の現実と信じてるものが、確固たる不動のものなんかじゃなくて、時代や

環境が変われば崩壊してしまうもんだ、ってことだけはわかった。

それから40 年もの間、買うことはしないで、図書館や本屋で新刊を見つけては、借り

たり立ち読みしてたりしてたんだけど、年を重ねるほどに、彼の表現が軽く具体的で

平易でとても読みやすくわかりやすいものになってきたようだった。

多分、学生運動のころの世代で彼をよく読み込んで理解した者が大勢出版社の企画を

始めたせいなのかもしれない。

同じようにインターネット「ほぼ日刊イトイ新聞」の糸井重里さんが生前から親しみ

を込めてお宅訪問を続け、長期インタビューや、講演集のCDを企画制作したのはと

てもいい仕事だと思った。

それらもよく読ませてもらって、どんどんいろんな事がわかった気がしたんだけど、

まず、彼の意識はいつも社会の底にいる人の側にいて、彼自身についても、そういう

情況になれば悪事さえする可能性がある弱い存在だと認識し、そこの視点からそうい

う不幸な情況のない世界にしていきたい、ってような話をする人なのだ。

彼の考えの絶対化は彼自身も望んではいないはずなんで、蛇足的に追加すると、今、

盛り上がりつつある反原発運動について、いつの時点の発言かしらないけど、彼は事

故の可能性があるから原発を止める、ってことには反対のようだったんだけど、この

底辺の私は今んとこ反原発の方に一票。




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