2/20のしゅちょう             文は田島薫

(強さとやさしさについて)

ハードボイルド作家のレイモンド・チャンドラーが探偵のフィリップ・マーロウに言

わせた「強くなくては生きていけない、やさしくなくては生きる資格がない」ってセ

リフは有名なんだけど、多難な状況を体験するとこれが身にしみる人も多いはずだ。

この、強く、って意味は、ハードボイルド小説ではもちろん腕力、って部分も否定で

きないんだろうけど、多分それよりももっと精神力のそれを言っているのだ。

人は腕力を鍛えることより精神力を鍛えることの方が難しいようで、証拠にたいてい

の武道の道場では精神力についても学ばせてるようだし。精神力が強くならないとい

くら体を鍛えても空しいものになるのだ。一般生活の場合、腕力が必要な状況はそう

はないだろうから、腕力を使わずに済む場合にもわざわざそれを使いたくなったりす

るのも精神力の弱さだろうし。

そういった腕力のいらない日常生活でやっぱり大切なのは精神力なわけで、これが弱

いと、ちょっとした自分の失敗に落ち込んでみたり、人とのトラブルにストレスを溜

めたり、病気に過度に神経質になったりするわけで、しかし、こういったことに強い

精神力、ってもんは鈍感さ、ってことと共通することかもしれないんだけど、そうす

ると、生きるためのもう一方のやさしさ、ってもんと矛盾しそうだ。やさしさは、鈍

感であってはできにくそうだし。

けっきょく、このちょっと矛盾しそうなふたつを両立させることがいい生き方のコツ

のようなんだけど、ただ生きるだけなら、人への同情といった感覚を麻痺させたまま

がんがんと人を押し退けていけばできるかもしれないけど、やさしさを持った者は、

そのためにストレスを溜めてしまいそうなところを乗り越え、公平さや同情心といっ

たものも保持したまま、意識でコントロールできれば(または修業によって無意識に

コントロールできたら)強さ(鈍感さ?)とやさしさで行動ができるのだろう。




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