2/8のしゅちょう             文は田島薫

(生きる力について)

「千の風になって」の訳詞と作曲で話題になった作家の新井満さんが新聞のコラムで

書いてたことになんだか感じ入ってしまったもんで、勝手にそれの概略をご紹介。


彼が高校生の時に新潟大地震があって、周囲で建物やできたばかりの橋の倒壊や、津

波、原油タンクの爆発炎上、道路の寸断などの地獄絵図を体験し、PTSD(心的外傷

後ストレス障害)になり、内臓の手術も受け、80キロあった体重が半分になり、生き

る気力をなくして死んだ方が楽かもといった考えにとらわれながら、将来のことも考

えられず喜びもない生ける屍のような生活を送ってた大学生のある日大学近くの土手

を散歩してたら、レンギョウの花が咲き乱れた、この世のものとは思われない美しい

風景に出会った、と。で、こんな美しい風景を見られるなら死ななくてよかった、っ

て感動し、そばを行き交う人々がそれに気づいてないようだからその美しさを教えて

やらなくちゃ、って声をかけ始めた、って。後で考えると自分でも相当変なやつに思

われただろう、って、それで、だれも足を止めてくれなかったそうなんだけど、やが

てひとりの老人がそばへ近寄って来て、よく教えてくれた。ありがとう。って、言っ

てくれたんだって、で、うれしくてそれで非常な勇気をもらったんだって。


生活に疲れを感じて、あらゆることに無感動になっちゃって、どんな景色見ても灰色

に見えたりする人にとっては、この話はピンと来ないかもしれないけど、けっきょく、

思うに、新井さんは人生の価値みたいなものをなにも感じなくなっちゃって、いわば、

からっぽの心になってたから逆にその素朴な美しさに気づいたんだろう。それを灰色

にしか見れない人の心は多分、まだ現実生活の雑念を抱えたままで、ひょっとすると

人生をどっかでまだ重大なものに考えていて、それに無力な自分を肯定できないとこ

ろから来ると言えるのかもしれない。

きっと、人生なんてもんはたいしたことではない、どんな悲惨な状況のような気がし

てても実はいくらでも楽しめるもんだってことなんだろう。

だれだったか、死にたい、って相談したら、相手が、「人生はろくなもんじゃないけ

ど生きてみろ」って言われた、って話とか、タレントの明石やさんまの座右の銘が、

「生きてるだけでまるもうけ」ってのはなかなかの至言なのだ多分。                                                     




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