●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが見た世間の人々の諸事情(?)シリーズの13。



世間話シリーズ

転落1


彼女が非行に走ったきっかけは失恋である。

相手の男が二股をかけていて、もう一方の女を選んだのだった。

一方的に別れを告げられてまもなく、あろうことか男は共通のある集まりに鞍替えを

した女を連れてきた。そのときのショックを彼女は生涯忘れない。

連れてきた女は化粧の濃い、ひらひらファッションのケバい感じでとにかく女の匂い

を強烈にアピールしていた。

えっ、こういう女がタイプだったの? 彼女は心底驚いた。

付き合っているとき、男は人間外見より中身だ、いくらきれいな女でも中身が空っぽ

では話にならない、大体着飾る女は、着飾ることで自己主張するしか能がない、なん

て言っていたのに・・・

彼女も同じ考えで、着飾ることに投資するよりも自分の活動のために時間もお金も掛

けたいし、目立つような外見で勝負しようとは思わなかった。だから普段はナチュラ

ルメークだし、ファッションも流行おくれの服を平気で着ていた。お互い似た者同士

だと思っていたのに・・・

男の本音ってわからない。やはり男は自分のために着飾る女を可愛いと思い、自分の

持ち物のように思うのだろうか。

純粋に男を愛していた彼女の気持ちは裏切られ深く傷ついた。そしてその傷を一層深

くしたのはなんといっても、女が自分よりもずっと美人だったことだった。若い女に

とってこれほどの敗北感はない。

(この男のあのときのあたしに対する愛情は本物ではなかったのか…俗に言う“アバ

タもエクボ”にはならなかったのか…女の見てくれってそんなに大事なのか…美しさ

で勝負ならばあたしだって…そうだ、それならば絶対きれいになってやる。そしてい

つかこの男を後悔させてやる。あたしを捨てたことを後悔させてやる)

と思考がどんどん狭くなっていき、気持ちがどんどん屈折していく。そして、絶対見

返してやるのだという執念になった。

それからしばらく、エステサロンや高級ブランドの服飾店に頻繁に出入りする彼女の

姿が見られた。 

そして、ついに事件は起きた。     (つづく)


戻る