同好の士
本のとり扱いにうるさい家に育ったせいか、いまでも本をぞんざいにあつかう人は好きでない。
本の表紙をよごしたり、ページの角を折ったりしたら怒られた。まして書き込み傍線を引いた
のが見つかったらただごとではすまなかった。必要なところは書き写せというわけである。
そのなごりで書き込みや傍線のある本はいまでも敬遠する。しかしその反面、本にある書き込
み傍線を見ながら前の持ち主の思考を想像するたのしみもあるのだが…
先日出あった本は、時代の汚れこそあるがきれいな外函で、中のクロス貼りの表紙には一点の
よごれもなかった。これはいい本をみつけたと、ページをめくっていくと付箋がはってあった。
これはだめかと本を閉じて小端をみておどろいた。十数枚の付箋がならんでいる。ほしい本な
のだが、ここまで読み込んでいる人だから書き込みもあるだろう、とがっかりしてすべてのペ
ージをみてみるときれいなものだ。ここで気がついた。この人は本を大切にする人だと。
本を大切にあつかう人種にはおもしろい性癖がある。もちろん書かれていることがいちばんな
のだが、それとならんで本の美しさにこだわる。装丁家とおなじだろう。
おなじ文章なのだから文庫で読めばいいだろうといわれてもダメな人種なのだ。いまでも日本
語は活字でなければいかん、パソコンとオフセットで刷られたものは本じゃないという人がい
るが、それほど極端ではないが気持ちはわかる。
蔵書印も型どおりに押されたこの本を見ていると、久しく会わなかった同好の士に再会できた
ようでうれしくなってきた。 |