3/12ののらねこ         文は田島薫


春の気まぐれ

いい天気だけど、ちょっと寒い朝、出勤して階段上がりながら、となりの建物の

ベランダを見るといつものようにブラッキーが寝てて、きょうはあっち向いてて、

振り向くのも大変だろうから、って声かけるのをやめて、上まで上がり、ココア

食堂の皿を洗ってエサと水を出しにドアを出たら、いつの間にか、バットマンが

階段の上がり口の踊り場に来て待ってた。

エサ置いてもそっちへはすぐ行かないんで、背中をもんでやると、にゃ〜にゃ〜、

ってお愛想を言ってしばらく、私につきあってくれてから、ちょっと、手すりの

すき間から下をのぞいてるんで、上から見てみるとブラッキーがこっちを見上げ

てるんで、来いよ、って手招きをしてから、バットマンを見ると、少し落ち着か

ない様子でエサの方へ行って、少しだけ食べて、また下をうかがって間もなく階

段を下りて帰って行った。


しばらくしてから、遠くへ引っ越しして朝1じゃなくなったシャンさんが出勤し

て来て、くろが来ててきょうは逃げない、って少し不思議がっていたんで、窓か

らななめ下のココア食堂コーナーをのぞき込んでみると、ちゃんと、私の招待を

意識して安心してたんだろう、ブラッキーが熱心に食事してる背中が見えた。


路地の見回りをしてみると、南側の道を横切って行くまだらが見えたんで、見て

ると、道を渡り切らない途中で立ち止まって、何かを見上げながら、ありゃりゃ、

って顔をしてる、視線の先を見ると、たたんだ段ボールを1メートルも積み上げ

た上に三毛がたった今来て、気持よく座れる体勢を調整してるとこだった。

ちょっとの間、フリーズしてたまだらは、ふいに、何かに気がついたように、体

を反転させると、なぜか思いきり走って逃げて行くのだった。


事務所のある建物に戻り階段を上がりながら、となりの建物のベランダに戻って

いたブラッキーを見ると、いつものようにじっとこっちを見るので、食事は済ん

だはずだから、何言いたいのかな、ってこっちもじっと見てると、向こうもじっ

と見てるんで、こっちもなおじっと見てると、向こうもまだじっと見てるんで、

おかしくなって笑ってから、また見てると、なぜか、急にびっくりしたように立

ち上がり、ベランダから小走りに屋根の方に逃げてからそこで立ち止まって、こ

っち見てるんで、いいよいいよ、ベランダにいなよ、って手で合図した。


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