●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、カニさんへの感想を並べてみました。



カニの話


知人からカニを頂いた。

私は特に好物と言うわけではないが、なんとなく特別なご馳走感がある。

以前、旅行先でカニの食べ放題という昼食があり、みんながおしゃべりもせず、

夢中で食べていた。

特に日本人はカニ崇拝が強い。それが昂じてカニカマという立派な偽物を作り

出して、おいしく安いカニ味食品のジャンルを作ってしまったくらいだ。

カニの姿は複雑で、足は10本、というか、前の2本はハサミなので手なのか

もしれないけど、横歩きというのはさぞ不便だろうと思う。だがカニはなかな

か敏捷なのである。前にしかいけない人間と比べて、横歩きのカニは右にも左

にも行けるので、むしろ自由度は人間の二倍。この差は大きく逃げ足は速いの

である。

カニといえば、

東海の小島の磯の白砂に

われ泣きぬれて

蟹とたはむる

という石川啄木の有名な歌がある。

有名な割にはつまらない歌だ。

「泣きぬれて」とはおおげさ過ぎる表現だし、たわむれにつきあってくれるほ

どカニはのんびりしていない。

だがカニはつつくと、前の大きなハサミを猛然と振り上げる姿は迫力に満ちて

愛らしく、やはり戯れたくなる生き物なのだろう。


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