●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん散歩中に、子供の頃のことを思い出しました。



シリーズ 住めば都 5

白幡池


私が小学校の4年生のときだった。

もう記憶は定かではないが、夏休み先生に引率されて、希望の生徒7〜8人で日比谷

公園へ昆虫採集に出かけた。

今思えば、小学生にとっては大塚駅から日比谷公園まではかなりの遠出だが、よく先

生は連れて行ってくれたと思う。

私は母から新しく虫籠と本格的な大きな白い虫取り網を買ってもらい、意気揚々と出

かけた。とにかく暑かった。そして公園は一斉のセミしぐれだったのを覚えている。

駆け回って網を振り回していたが、収穫はなく、虫籠には先生だか友達だかに貰った

セミが1匹。

その光景が頭に残っているせいか、セミしぐれにあうと、つい、そんな子供の頃の情

景が思い出されるのである。

今新しい住まいの近くに白幡池があるのを発見したのも夏の盛りで、ミンミンゼミが

声を張り上げていた。

周囲を木に覆われたその池は、広めの道路から少し外れた住宅街にあり、それほど広

くはない。池の脇に趣ある木道が渡され、池を囲んでベンチが置かれ、なかなかきれ

いに整備されている。

夏休みで、ここでは子供はセミ採りよりも小さな網でメダカをねらっていた。

きっと私とは異なる思い出を刻むのだろう。

奥の方へ歩いていくと、小さなグランドがあり、さらに雑木林が深くなり小さな坂道

が続く。もちろんここも一斉の蝉しぐれ。

大木に囲まれた小道に登っていると、おお、なんだか山奥に来たみたい! と、ちょ

っと胸が高鳴った。

それもそのはず、この辺からは”区立白幡池公園”から”神奈川県立の緑地帯”に格

上げされているのだった。

しばらく歩くと、悲しいかな、なんと言ってもここは住宅街の中。たちまち坂道は住

宅の続く道に出てしまうのだった。


  思ひ出を球体となす蝉しぐれ  


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