●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、水仙に“人格”を見たようです。



シリーズ散歩日和 8

水仙



我が家の庭は今、水仙が花盛りである。

”あれ、今年はいつのまにかこんなにいっぱい…”と嬉しい誤算があるほど、あち

こちで増えていた。

小さな白い5枚の花弁、真ん中に口を尖らせたような黄色の輪、その先にめしべが

ほんの少し乗っているだけ。葉といえば、ただ細長い緑の直線である。余計なもの

は一切そぎ落とした、ごくシンプルな花である。

さらに格を上げているのはそのかぐわしい匂い。人を惹きつけずにはおかない高貴

な香りだ。

私はそんな水仙に”気高さ”をみる。

清楚で気高い水仙は日本人の感性に合うのだろう。昔から水仙はよく絵に描かれて

いる。

私がほんの趣味程度に描く絵でも、白を扱うのがいちばん難しいと感じる。

白を塗れば白い花が表現できるわけではなく、その白さを強調するためにはさまざ

まな色を入れたり陰影を入れたり工夫しなければならない。

これは、その人の人格を磨くうえでも大切なことではないだろうか。

陰影は自分の弱さであり、切なさであり、気持ちのどうしようもなさである。

さまざまな色を足すのは歳を重ねていく深さであり、強さでもある。

人間は弱いものだという自覚があってこそ、あの気高い水仙の純白をめざすことが

できるのではないだろうか。


  水仙を飾りて夫(つま)の月命日


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