●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、マスクでコミュニケーションしたようです。
シリーズ散歩日和 5
マスクのせいで・・・
その日、ちょっと足を延ばしてずっと奥の住宅街を散歩していたら、近所のゴンちゃん
(犬の名前)がおかあさんといっしょに散歩中だった。
手を振って合図したが、マスクならぬ胴着を着たゴンちゃんだけが早めに反応して尻尾
を振ってくれたが、リードを持つおかあさんの方は訝しげに私を見ている。5メートル
ぐらい近づいてやっと反応した。
お互いマスクして表情がわからない。たぶん笑顔で応えているのだろう。
「ごめん、マスクしていると誰だかわからないわ。それに思わぬところで出会ったし…」
おかあさんが詫びている。
人々のマスク姿が日常になって久しい。見慣れてきたけどやっぱり皆異星人のようにみ
える。その人の周りにはなんだか立ち入り禁止のバリアーがあるように感じて、気軽に
声を掛けにくいのだ。
話していても表情がわからないぶん、深く立ち入れず、なんだか人間関係もマスクのせ
いで希薄になったような気がする。
そして前代未聞の長く続いている自粛生活に、新しく心躍らせる体験も刺激もなく、人
はどんどん不安と孤独に陥っていくようだ。
私たちは、ゴンちゃんを待たせてしばらく長い立ち話をした。
ありきたりのコロナの情報交換など他愛のない話ばかりだったけど、それでもなんだか
満たされたのは、私も彼女もただただ話し相手が欲しかったのだろう。
マスク越し 言葉詰まれば 襟立てむ