映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、大好きな監督特集で年越ししたようです。




【スタートは小津】


年始はいつもご近所の映画館・早稲田松竹で映画を観る。今年は小津安二郎

の『彼岸花』と『秋日和』だ。原作はどちらも小津と親交のあった里見クで、

脚本は野田高梧と小津。


『彼岸花』は、娘の結婚に反対する父親を中心に、その友人たちの娘の結婚

問題も絡めて、親子の思いが描かれる。小津初めてのカラー映画なのだけど、

色合いがとても良く、センスを感じさせる。赤いやかんやちょっとした 小物

が画面のどこかしらに入っており、とても印象的だ。それもそのはず、 発色

の良いアグファフィルムというのを、キャメラマンの厚田雄春が特注し て使

ったらしいのだ。しかし、タイトルにもなっている彼岸花は、どこにも 出て

なかったなぁ。不思議だけど、まぁいいか。

この映画を撮影していた時に小津が言った言葉は、映画史上の名言ではない

だろうか。「ぼくの生活信条として、なんでもないことは流行に従う。重大

なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」

感じ入って、すっかり覚えてしまった。


もう一本の『秋日和』は、亡き夫の七回忌を迎えた妻と娘の、それぞれの結

婚にまつわる話。『彼岸花』に出ていた佐分利信、中村伸郎、北竜二が、同

級生役で本作にも出演し、母娘のために奔走する。今なら問題になるであろ

うセクハラ発言もあるが、60年前の昭和の文化として受け入れるしかない。

そこを差し引いても余りある素晴らしいユーモアに満ちた作品だ。ずっと娘

役を演じてきた原節子が母親役を、司葉子が娘役を演じ、岡田茉莉子が娘の

友人をコミカルにチャキチャキ演じていて、ウェットになりかねない流れを

中和している。二作ともローポジションの固定カメラはいつもの小津流。そ

れまで父と娘の話が多かったのが、本作は母と娘だったのが新鮮だ。もっと

も随分前に観て知ってはいたのだけど。やっぱり小津はいいなぁ。


『彼岸花』
1958年/ 118分/日本
監督 小津安二郎
脚本 野田高梧、小津安二郎
原作 里見ク
撮影 厚田雄春
出演 佐分利信 有馬稲子、田中絹代、山本富士子、久我美子

『秋日和』
1960年/ 128分/日本
監督 小津安二郎
脚本 野田高梧、小津安二驛
撮影 厚田雄春
出演 原節子 司葉子 岡田茉莉子、佐分利信、中村伸郎、北竜二


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