●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、身近な場所に光と影のパノラマを確認のようです。



シリーズ 散歩日和 1

丘の上


陽が傾き始めた。

斜めになった陽は散歩には好都合だ。

陰影が一層深くなり、見慣れた風景が立体的に迫ってくる。

光と陰で分けられた鋭い直線のマンション、輝く木立の下には深い闇、すべてが

ドラマチックな趣向となる。

我が町は坂が多い。

高台は昇り降りで日常の移動には不便だが、そのぶん、眺めが良く、敷地にゆと

りがある。空気も微妙に変わるようだ。

目の前の坂を上りきると、町の名前は“富士塚”。

その名の通り、晴れた日にはその一角に、遠く丹沢の山並みとその後ろに富士山

の頂上部分が見えるのだ。

その日晴あがって寒いぶん、北風が雲を吹き飛ばし、空が広々と広がっていた。

この時刻、オレンジ色になった柔らかな陽は淡い空色とまじりあって夜の準備を

始めている。

低く一片の雲が浮かんでいた。

その雲は刻々とその表情を変えていて、白から茜色に、そして、たちまち落日が

雲の裏側に回りこみ、影となった雲を黒くして、その縁を金色に染めあげた。

空の一角で昼と夜がせめぎ合い、つくりだされる美しい夕焼けの一瞬。

その中で丹沢の低い山並みと、ひときわ高く尖った富士山の三角が黒いシルエッ

トとなって夜の闇に溶け込もうとしている。

私は刻々と変わる雄大な空の変化を見とれていると、昼間の緊張感から解放され、

日々コロナ、コロナで気が晴れぬ気持ちが吹き飛んでいくようだ。

自然は何も動ぜずにあるがままに変化する。

ジタバタするな、なるようになるのだ、と教えられたような気がした。


  見ゆるもの色濃くなりぬ冬茜


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