●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、無常についてなにか覚ったようです。
彼岸花
いつもの散歩コースである公園プールの遊歩道を歩いていたら、彼岸花が咲いている
のに気がついた。
2〜3日前まで影も形もなかったのに、突然5〜6本かたまって咲いている。
それも薄緑のまっすぐな茎がいきなり土から立ち上がっているのだ。葉っぱもなけれ
ば次に咲く蕾もない。
植物って、まず芽が出て葉を茂らせ、光合成で栄養を蓄え、蕾をつけ、やがて花開く、
学校ではそう教わったはずだ。
とすると、これは花の中でもかなり異常ではないか。
何でも物事には予兆というものがあるだろうに、と私は心の中でつぶやく。
このいきなり感は何なのだろう。
天変地異でも病気でも人との関係でも、変化するときは何かしらの予兆があるのでは
ないか。
人はそうした予兆をいかに見逃さず対処できるかを、日々感覚を磨き、経験や修練を
積むのだ。
彼岸花が予兆もなく、急に姿を現したことに私は虚をつかれた。
世の中には予兆のないものもある、という事実。そして、たとえ小さな予兆があった
としても、人は気づかなかったり、たとえ。気がついても悪いことならとかく大丈夫
だとないことにして、楽観的に予想したがるものなのだ。
春からのコロナ流行もそうだったのではないだろうか。
案外、人間社会には予兆のない“まさか”が満ち満ちているのかもしれない。