●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、参加してる句会で新鮮な学びがあったようです。



シリーズ 老いの賜物 その3

タンポポの知恵



コンクリを 割りてタンポポ 花咲けり


これは俳句教室で秀句に選ばれた句である。

あの固いコンクリートの割れ目からよくぞ芽を出し花を咲かせた、そのど根性振りに感

動したという作者の弁だった。

舗道を歩いていると、陽当たりの良い端の隙間から一輪のタンポポが黄色の花を咲かせ

ているのに気がつくことがある。

こんな土のない、人の通る場所で、よくもまあ逞しく…と誰もが思う。

皆がその俳句に共感すると、一人の仲間が別の理屈を披露した。

「このたんぽぽは決して“ど根性タンポポ”ではありません。“ちゃっかりタンポポ”

なんです。まず、飛んできた種がたまたまコンクリートの隙間に落ちます。コンクリー

トの下には当然土がありますよね。その土を独り占めにして根を張り、隙間から上へ上

へと成長すれば日当たりの良い外に出ます。陽当たりは抜群、おまけにライバルがいな

いので、栄養も太陽も独り占め。実に効率の良い生き方なんですね」

皆、ほー、なるほど!と感心した。

このタンポポには効率の良さや逞しさや知恵が詰まっている。我々も見習わなければ…

と皆うなずき合った。

さて、句会が終わり、その帰り道。

それほど親しくないおばあさんが、坂道にさしかかると私の腕に腕をからませながら、

「今日は面白い話を聞いたわね」と話しかけてきた。私も「そうですね、たんぽぽの生

命力ってすごいですね」と相槌を打ちながらひそかに、いきなり腕を組むなんてこのお

ばあさんずいぶん積極的と内心驚いた。

それから、そのおばあさんは分かれ道に差しかかると、腕をふりほどきさっさと離れて

いった。

後で、気がついた。おばあさんは、坂道で腕を組んだのは私を杖代わりにしたのだと。

あの“ど根性タンポポ”“ちゃっかりタンポポ”を早速実践したのだ。

私は感心した。臨機応変で即行動、まっすぐで前向き、こんなお年寄りになりたい、と

も思った。そうでなければ老いは乗り切れない。


戻る