●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、身近にあるものも家事の強い味方と感じたようです。



漆器と仲良し


八百屋の店先に茄子が一山200円で盛られていた。

黒々とした紫色がつややかに光っていた。

私は早速お買い上げ。

今夜のメニューに茄子のシギ焼き、それから細かく刻んで塩でもんでギュッと絞っ

て生姜醤油和えを添えよう。

歩行困難な夫はほとんど家にいて外食しないので三食家で食べる。私は三度の食事

作りが結構大変である。

ときには既製品を買ったり、手抜き料理でごまかしたりしてしのいでいる。

今夜のごまかし方は器。

そろそろ秋めいてきたし、盛り付けに漆器を使ってみようと思いついた。

真っ赤な盛り付け椀に、茶色の味噌がかかり、白ごまがアクセントの茄子のシギ焼

きをこんもり盛り付け、ゆでた緑のオクラを添えると、なんと大変なご馳走に見え

るではないか。

たった200円の茄子が高級料亭の一品に早変わり。私は大満足であった。

漆器は扱いが難しいという。

湿気に注意、極端な高温低温に注意、傷つきやすいので取り扱い注意、など注意事

項は数々あるけれど、はまると手放せない。

漆器特有の見た目の重厚さ、温かみのある感触、軽量、形のシンプルさがなんとも

味わいがあって大好きだ。それで我が家にも汁椀、盛り付け椀、菓子器、重箱など

少しばかり取り揃えている。

陶器と異なり、漆器はなんたってその存在感とそして“器”の分際をわきまえてい

ること。余計なものをそぎ落とし、出しゃばらず、載せるものを最大限に引き立た

せてくれる。

マンネリ料理を打ち砕く強い味方なのだ。

私は漆器から多くのことを学んだ。

ただあるだけの存在感の凄さ、懐の深さ、自己主張し過ぎない、あるがままを受け

入れる等々。私もそうありたいと願う。


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