映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
ソフィア・コッポラの視点について




マリー・アントワネット


ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』について某所で話

すことになり、同監督の他の作品も観直すことにした。 その中の一本が『マリー・ア

ントワネット』。世界的大事件だったフランス革命で処刑された若き王妃の物語だ。

14才にして母国オーストリアと偉大な母の元を離れ、一人フランスに嫁ぎ、フランス

革命勃発によりギロチンの露と消える。

この悲劇の王妃の物語は多くの人に知られているところだが、私を含む殆どは、ステ

ファン・ツヴァイクの小説によるのではなく、池田理代子の漫画もしくは宝塚歌劇団

の「ベルサイユのばら」を通して知ったのだろう。 贅沢の限りを尽くし、国家の金を

湯水の如く使い尽くしたため、貧困にあえぐ民衆の怒りを爆発させてしまった。

映画は、この派手に浪費を楽しむアントワネットの姿を捉える。 ソフィア・コッポラ

作品の特徴と言って良いであろうカラフルなファッションやスイーツ、ポップな音楽

で飾られ、不謹慎ではないかと思わせるシーンも多い。 そしてアントワネットの悲劇

の部分、つまりやっと授かった子どもの死や本人の処刑のシーンは詳細を表現してい

ない。焦点を当てるのはそこではなかった。

この映画は、異なる世界に放り込まれた14歳の少女の孤独との闘いを描いたものなの

だ。色彩溢れるファッションにのめり込み、美味しいお菓子を沢山食べ、世の中の事

は知らないけれど、自分の世界をハッピーにすることに全力を注ぐ。ソフィアが魅了

された東京の街中にいそうな女の子の世界そのままではないだろうか。それがたまた

まフランス王妃だったという悲劇。そんな視点でアントワネットを見ている。けれど

もアントワネットは様々な経験を重ねて変わっていく。成長と言うにはあまりにも特

異すぎて言葉がしっくりこないかもしれないが。

オーストリアからパリへ行く時に見た窓の景色と、ベルサイユからバスチーユへ行く

時の景色の違いが切なかった。


2006年/アメリカ映画/122分
監督/脚本 ソフィア・コッポラ
撮影 ランス・アコード
衣装 ミレーナ・カノネロ(アカデミー賞受賞)
主演 キルスティン・ダンスト


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