●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんにはどーにも居心地わるかったようです。


目黒川のお花見


今年の桜は早熟であれよあれよという間に満開を迎えてしまった。

私の友人に桜の追っかけがいて、その友人に誘われてあたふたとお花見にでかけた。

場所は最近の人気スポット、目黒川。

最寄りの中目黒駅に降り立って驚いた。人、人、人。

退職した夫婦者、誘いあわせたおばさんグループ(御多分に漏れず我々もそうなんだ

けど…)、インスタ狙いの若者、物見高い外人観光客が入り乱れて、さらに駅での待

ち合わせ組などが右往左往して、まったく駅周辺は大変なことになっていた。

駅員や警備員が改札付近には止まらないでくださーい!」とメガホンで叫び、殺気立

っている。

すっかり意気消沈の私だったが、桜好きの友達は興奮気味だし、せっかく来たのだか

らととにかく目黒川を目指した。

川の両脇はずらりと飲食店が並び、屋台まで出ている。桜の木の下で宴を開く環境で

はなく、ただ混雑の中で、人々はしゃべったり、ものを食べたり、写真を撮ったりし

ながらぞろぞろと歩きながら花を愛でている。

こんなお花見好みじゃない、と私はすっかり醒めている。

とはいっても桜に罪はない。

川沿いにびっしり植えられた桜並木は、それはそれは見事に満開で、水量浅いコンク

リート壁の目黒川に思いっきり枝を下げて、影を落とす姿は美しく風情がある。

桜と水面は相性がいいのだ。

日本には桜があまたあるけれど、山奥でひっそり咲くものから、ここの桜のように街

中の喧噪の中で咲くのまでいろいろだ。

桜自身はどこで育って咲くかは選ぶことはできないけれど、みんなから愛されること

には変わりはない。

桜にとっては、静かに我が世の春を楽しみたいのだろうか、それとも、案外目立ちた

がり屋で、たくさんの人に見られて本望なのだろうか。

そんなことを考えながら、カメラスポットの橋の上から写真をとっていたら、警備員

のおじさんに「立ち止まらないで! 車が通ります! どいて! どいて!」と怒鳴

られた。


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