●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんから「乗り入れ型電車をめぐる日本文化に及ぼす影響についての考察」



地下鉄


東急東横線は日比谷線、三田線、南北線、副都心線が乗り入れている。

私がよく乗るのは日比谷線。

中目黒駅から地下路線となり、車内の雰囲気がガラリと変わったように感じる。

窓からの景色が消え、車内が人工の光となり走行音が高くなると、人はおしゃ

べりを止め、慎ましく、緊張したように見え、そして少しばかり都会的な顔に

なる。

次は恵比寿でつまり都心に入ったのだ。

それからは駅と駅との間隔は短くなり、次々と人が入れ替わる。面白いことに

止まる駅の個性によって乗降客の客種がかわる。黒っぽい服のサラリーマン、

ラフな格好の若者、買い物袋を抱えた女性客、という風に。

私は地下鉄に乗ると、お上りさんよろしくちょっと緊張してしまう。

車内放送があるわけではなく景色が見えるわけではないので、自分の降りる駅

をドアの上にある停車駅を刻々と知らせる掲示板をチラチラ見たりして落ち着

かない。

地下鉄の車両には、無言のうちに住みわけができていて、決してお互いに立ち

入らないようなよそよそしさがつきまとう。

物を落としても、落ちましたよ、とは他人は決して教えないだろう。

他人に無関心で、言い換えれば自分のことで精一杯なのかもしれない。

地方には特有の伸びやかさとリズムがあるのだが、都心の地下鉄を利用した相

互乗り入れという便利なシステムは、都心を経由してさらに別の県にも通じて

いて、まるで地方独自の雰囲気を強制的に異種交配しているようだ。

どこもそうなのだが、便利さはその地方らしさが失われ、日本の均質化を招く

ことだろう。


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