思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、過酷な旅から帰還のようです、エピソードその14。





モロッコへいってきた

バスの窓から「砂漠の宿」





ラクダステーションを出発した4WDは、ふたたび砂漠のなかの舗装道路を走って今夜の宿

オーベルジュ・トゥンブクトゥホテルに着いた。

ホテルのあるメルズーガは砂漠のなかの小さな村であったが、道路が整備されてから砂漠観

光をする人を目的とするホテルがふえてとても地の果てとは思えない。

ホテルは砂漠の民の住居カスバを模して造られている。芯はコンクリートなのだろうが外見

は泥レンガで造られたように見える。フロントのある棟は独立していてロビーの床と柱はモ

ザイクタイルで装飾されているが壁と天井は泥の肌がそのままである。ここで今後の予定を

聞き、部屋のカギを受け取った。中庭をはさんで50mほど離れている宿泊棟は、建物に装

飾がないのでますます砂漠の住宅にみえる。部屋は2階で、砂丘を一望する廊下に面して

20室くらい並んでいる。

厚い板で作られたドアをあけるとムッとした熱気がながれてきた。部屋はひろく、壁を頭に

してベッドがふたつならび、足元の方に机とドアがないクロークがある。クロークの奥に洗

面台が露出していてトイレがならんでいる。その反対側にシャワー室がある。窓は小さく廊

下に面したところとトイレのわきにあるだけで風を通すこともできない。あわてて持って行

った温度計をみると32℃。洗面台の上、高い天井のすみにクーラーがあったのでさっそく

スイッチを入れると動き出すがすぐに止まってしまう。この熱さのなかでクーラーなしなん

てとんでもないと、なんどもスイッチを入れ直すがすぐに止まってしまう。フロントにその

ことを電話すると「英語がわかるか?」と聞いてきたので「少しはわかる」と答えると、そ

のまま待てと返事がかえってきた。5分と待たずにやってきたお兄さんはこころえたように

クーラーのすぐそばでリモコンのスイッチを入れた。すると、アーラ不思議クーラーは動き

出した。お兄さんは「動くじゃないか」といいたげな顔をして出て行ったが、その実は「日

本人はクーラーの使い方もわからないのか」と思っていたのではないか。しかしそのクーラ

ーもしばらくしたら止まってしまった。お兄さんのまねをしてクーラーのまぢかでリモコン

のスイッチを入れたがおなじことだった。これはまいったというところにHさんが通りかか

ったので事情を話すと「わかりました。すぐに手配します」といってくれた。こんどはオジ

サンがあらわれた。よけいな説明ぬきでお兄さんがやったことをくりかえすと、やおらリモ

コンの電池を交換しはじめた。そしてクーラーは完璧に動き出した。それにしてもリモコン

の電池がなくなると止まってしまうクーラーなんてあるのだろうか。ちなみにこのクーラー

は日本のすぐおとなりの国の製品であった。

時間になったのでロビー棟のならびにあるレストランへ歩いた。あいにくくもりなので砂漠

の星空をながめることができない。床と柱はモザイクタイル、天井は格天井になっている豪

華なレストランでの夕食はバイキング形式。蒸し風呂のような部屋にいたので冷えたスイカ

がおいしい。スイカばかりを食べていた記憶しかない。食事がすんで部屋にもどるとほとん

ど冷えていない。文句をいっていてもしかたがないのでシャワーをあびることにした。ここ

のシャワー室はドアがなく迷路を入って行く。どういう設計なのかシャワーのお湯は外にと

びちらない。二人がシャワーをすませて、明日が早いから寝ようというころになって室温は

ようやく29℃になった。10時50分、明日がはやいので目覚ましの時間を確認してベッ

ドに寝転んだがなかなか寝付かれない。事件は、このあとに起こった。


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