●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、巷での見聞きを話にしましたシリ−ズ 3



シリーズ 男模様女模様

女の愚痴


女は思うのだった。最近、愚痴が多くなったかなと。

だって仕方がないじゃない、夫は病気だし、自分も体調がイマイチだし、気分転換す

るにもだんだん憂さ晴らしの選択肢がせまくなっているのだもの。

そりゃ、若い頃だって愚痴はあったけど、やることが多く忙しくて愚痴そのものを忘

れてしまうのだった。

それに若いうちの愚痴などはタカが知れていて、失恋とか職場の不満とかで誰でもが

体験することで、それほど深刻なものではないのだ。

聞かされる方だって、眉をひそめ、うんうん、わかるわ、などと適当な相槌を打って

みるのだが、解決する妙案などは持ち合わせず、興味半分、暇つぶし半分で聞いてい

る場合が多いのである。

そのうち、愚痴っている方も一通りしゃべっただけですっきりしてしまい、なんのこ

とはない、よーし、おいしいもの食べにいって忘れよう! とか、どこかに気晴らし

旅行しよう! などと遊びに転化する。かわいいもんである。

ところが、悲しいかな歳をとるとそうはいかない。

夫の介護、自分の病気、親戚づきあいなど愚痴の内容も多岐にわたり、深刻度もぐん

と増してくるのである。

先日も女のもとに電話がかかってきた。同じように病気の亭主をもつ東京の友人から

だった。

昔、あんなに頼もしく自分を支えてくれていた亭主が、病気による弱気で、わがまま

になったり、甘えたりで、まるで立場が逆転、自分がまるで母親のような役割になっ

ていくのがたまらないという。

こういう話は身につまされる。

歳をとると後がないから、昔のように、晴れてかかあ天下の地位獲得ね、と笑いのめ

すわけにはいかないのだ。

だから、そうそう、まったくそうよね、今は亭主達者で留守がいいなんて望むべくも

ないわね、ウチも同じ道を辿っているわよ、歳をとるってそういうことなのねえ、な

どとしんみりと共感するしかないのだ。

大体、愚痴は女性の専売特許と思われているが、確かにその通りで女は女同士、よく

愚痴を吐き合って、今を乗り越える。

ああ、この人とならばいつでも気軽に愚痴を言い合える関係だという認識があれば、

ただ相手がそばにいるだけで、気分が晴れたりするから不思議である。

男などは愚痴をこぼすのは男の沽券にかかわると教育されたのか、愚痴をこぼすのが

下手だけど、女は今日も「聞いて、聞いて」の世界がいとも簡単に繰り広げられてい

るのだ。


戻る