●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、モナリザの気持になってみました。



モナ・リザの話


私、いくつに見える?

その頃眉を落とすのが流行っていたので、眉がなくだいぶ老けて見えるらしくて大抵の

人は30才前後というわ。

実は25才なの。

とびきりの美女でもないし、かといってブスでもないけど、私ほど有名な女は世界にい

ないと思う。

ダヴィンチ50才の頃の円熟期の作品とあって、よく絵描きの卵が私を模写するようだ

けど、この間もある絵画教室で、モノクロのコピーを手本に模写していた。出来上がっ

た作品はひどいもんよ。

妖艶なバーのマダム風、目をパッチリ描きすぎて現代風、顎がふっくらし過ぎたおデブ

風、微笑のない不機嫌顔風、陰影の薄いのっぺらぼう風、等々思わず吹き出しちゃった。

先生がきちんと製図をしてそこに輪郭を収め、薄いのから濃い陰影へと仕上げ、正確に

描くように指導していたけど、それが意外とむずかしいらしい。

しっかりこちらを見つめる褐色の目、やや口角をあげた口元、前髪のない広い額、鼻筋

の通った細い鼻、黒いベールを被り流れるような黒褐色の髪、つつましく交差させた手、

全体を包む暗い色調、など私の外見はさまざまな情報を発信していると思う。

さて問題は、あの『アルカイックスマイル』といわれる神秘的な謎めいた微笑。 

世界中の人が、微かにほほ笑んだ口元を見てさまざまな想像をしてくれるのは嬉しいけ

ど、これも私の内面がつい外面に出た現象ってことね。

ある人はやさしさや女らしさに満ちた既婚女性特有の余裕の表情といい

またある人は男を誘惑するエロチシズムを感じさせる娼婦的表情といい。

またまたある人は神々しさを演出したダヴィンチのテクニックだという。

印象ってさまざまでとても大事なんですね。

そこで私はひそかに思うんですけど、よく世間が言う『見かけじゃないよ、心だよ』と

いうのはウソで、やっぱり『人は見かけ』で判断しているんじゃないかってね。


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