思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、おなじみの弱点が発揮されました。





また、また、やってしまった




「また、やってしまった」のあとには、学生だと単位を落してしまった。社会人なら仕事

のミスか酒の上の失敗などが語られ、そこには負のひびきがある。


そう、「また、やってしまった」のではなく、「また、また、やってしまった」のである。

古カメラを愛でる友人から「来週中古カメラフェアがあるのをご存じか」と迷惑なメール

が入った。彼はもともとカメラ好きで現役のころはお金が自由にならないのでカメラ談義

だけでおわっていたのだが、定年退職をして第二の職場に移って小遣い銭にこまらなくな

ったとたんに急進的なコレクターに変身した。自分がほしいものが簡単に手に入るという

ことはコレクターにとっていちばん楽しいことだ。


迷惑なメールと書いたのにはわけがある。こちらは苦労して、その世界から足を洗おうと

しているのにいろいろうるさく誘ってくる。それはタバコをやめるのとおなじことで決心

を鈍らせるもとになる。

会ったときに話しが合わないのもきのどくなので、見るだけ見ておこうと出かけた。会場

についてみてその雰囲気が変わっているのに気がついた。去年までは状態の良いきれいな

カメラしかなかったのに、すっかり昔の状態にもどって趣味性の高いものが大半を占めて

いた。時代が変わったのだ。なんでも清潔、清潔と横並びに育てられた年代がおわって客

層に自分の欲するもの、個性の主張がめばえてきたようだ。

と、なるとどうなるか。目はらんらんと輝き商品をさがすアンテナは20年前にもどって

しまい、悪魔と出会った。それは人間の両目の視野とおなじ写角をもつ50年前の超広角

レンズで、そのころの給料一月分の定価だったものが手頃の値段で出ていた。さんざん迷

ったあげく手に取ってみたら状態の良いお買い得品であった。しかし、あまりたよりにな

らぬ誓いもあるので決心しかねながら、同年輩のカメラ屋のおやじさんと昔話に花をさか

せているうちに「よくみつけましたね」とおだてられて買ってしまった。

広角レンズは接写にすぐれている。写真の花とカメラは30センチしか離れておらず、こ

れからはおもしろい写真が撮れると自分をごまかしながら、「また、また、やってしまっ

た」のである。


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