思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、過酷な旅から帰還のようです、エピソードそのエンディング。





モロッコへいってきた

バスの窓から「終章」





アメリカ資本傘下のカサブランカ・フェラーホテルは、ほかで泊まったアメリカ系ホテルとかわら

ない。

広いロビーもふんだんに大理石が使ってあるほかは白と黒のモダンな感じにまとめられ、ところど

ころにモロッコの装飾がほどこされているので、ここがモロッコだとわかるくらいだ。部屋は思い

のほか広かった。しかし、いままでのホテルとくらべると殺風景で味もそっけもない。窓ガラスも

よごれていて外の景色が良く見えない。もとより見えたとしてもビル街の一角だから景色を楽しむ

わけにはいかない。このあたりにホテルの格を知らされ、安い旅行の現実がよみがえる。

夕食の時間になった。メニューはフランス料理のコース。入国いらいモロッコ料理にあけくれたの

で、一週間ぶりに食べた洋食にホッとしたのがなさけない。


食事が終わり部屋にもどると9時半。早朝の出発にそなえて荷物の整理がおわったら10時半にな

ってしまった。テバちゃんが、つかれたのでゆっくりと風呂にはいりたいというので、その間に散

歩に行くことにした。カサブランカに来たのに、ハッサン2世モスクと国連広場だけではもったい

ない。

玄関に立つガードマン氏にあいそ笑いをなげかけて、一歩外に出ると意に反して街は暗かった。広

い歩道に人影はまばらだ。むりもない、ここは繁華街からはずれた所なのだ。少し歩くとオフィス

ビルの一階にカフェが連なっていた。なかにはガラスの向こうは執務中という店もある。

カフェと言ってもしゃれたものではない。道路側がオープンスペースになっている飾り気のない広

い部屋にたくさんのテーブルが並んでいる。日本の大衆食堂を想像してもらえばよい。

前方あかるいところが国連広場だ。広場に立つと昼間とちがった活気がある。道路向こうにメディ

ナの明かりがまぶしい。ここにいる人たちはこれからスークにくりだして買い物や食事を楽しむの

だろう。おどろいたことに、そのなかに子供づれの家族もいる。ラマダンだからだろうか、日本で

は考えられない時間帯だ。人の流れにのって道路をわたればメディナの門だ。しかし、一歩入って

しまえば大好きなスーク、2時間は出てこない自分の性分はわかっている。明日がとびきり早いの

でやせ我慢。人ごみにまざってみえる観光客の姿がうらめしい。うしろ髪をひかれながらメディナ

の門をあとにして、帰りはカフェをゆっくり観察しながら歩くことにした。よく見るとカフェに女

性客の姿がちらほらみえる。イスラム圏ではめずらしいことだ。マイッタさんの言によるとモロッ

コは「ソフトイスラム」で他のイスラム国よりも戒律がゆるいそうだ。カサブランカ市にかぎって

いえば宗教の戒律はますますゆるく、西欧化されていてスカーフを被らない女性や、連れだって歩

く男女の姿もみかける。マイッタさんが口にするわけにはいかないことなのでHさんの忖度による

と、カサブランカには酒が飲めるレストランやバーがあり、おまけに娼婦までいるので近隣イスラ

ム諸国からわざわざ飛行機に乗って遊びに来る不良イスラム教徒もすくなくないという。ほんとう

はこういう場所を歩きたかった。

短い時間であったが、気ままに歩いてその地の感覚を肌で感じられたことはよかった。どこへ行っ

ても自分の意志で歩いたところはいつまでも記憶にのこる。部屋にもどると11時。いそいでシャ

ワーを浴び、この時のためにスーパーで買っておいた、ビールとウィスキーの水割りでモロッコに

乾杯。


とうとう最後の日になった。2時45分起床。身支度をし、忘れ物の確認をすませて部屋に名残を

おしむと、そろそろ時間だ。はやめにロビーに下りると一番乗り。まっていたマイッタさんにあい

さつをすませるとまだ暗い外に出てこれからしばらく吸えないタバコをくわえた。朝食の弁当を受

けとって4時出発。空港で、旅を共にした運転手のモハメドさんにチップを渡し握手で別れる。

カサブランカ空港はすべてセルフサービスだ。トランクの計量までやらされたのにはとまどったが

無事終了。待合室のみやげ物屋はまだ開いていない。ものを買うわけではないがひまつぶしができ

ないのでこまった。飛行機に乗るとすぐに食事が出たので朝の弁当がもったいない。

トランジットのドゴール空港では手荷物検査でふたりともひっかかった。徹底的に調べられ、テバ

ちゃんは別室にご案内。それでもお咎めなしとはどういうわけだろう。待合室には、セルフサービ

スのカフェしかない。ここに40分いたらあきてしまった。35年前、一人でパリを遊んだテバち

ゃんは、「昔はこんなではなかった」と文句をいうがそんなことをいってもはじまらない。

約3時間の忍耐のすえ成田行きのゲートが開いた。さらばモロッコだ。


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