思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、過酷な旅から帰還のようです、エピソードその20。





モロッコへいってきた

バスの窓から「砂漠の要塞村」





また事件が起きた。

こんどは、ねぼけたではすまない本物の事件だ。

昨夜、4〜5人の人が嘔吐と下痢におそわれた。どうも軽い食中毒らしい。旅も半ばを

すぎ、疲労がたまってきたようだ。幸いみなさん軽症で旅の予定に影響はなかった。

朝食をすませ、時間があるので外に出た。玄関前は、4、5軒の店があるだけで石の塀

がつづいている。

ラマダンなので一軒の店を除いて閉まっているが、外から覗くとおもしろそうな店もあ

った。昨夜来なかったのがおしまれる。グラスワインとビールを飲んだだけで酔いがま

わるとは、こちらもくたびれていたようだ。開いている店の前に立つとお仲間が出てき

て言うには「入らないほうがいいですよ。奥の方に骨董品がならんでいてうるさくつき

まとわれるから」いわれたのでホテルにもどることにした。


昨夜の被害者高齢のSさんを最後部の座席に寝かせてバスは出発した。15分ほど走る

と砂漠のまんなかにある映画スタジオについた。ここはモロッコのハリウッドと呼ばれ、

「アラビアのロレンス」など有名な映画が撮られたところだ。スタジオは高い塀にかこ

まれていて中は見えない。塀のところどころに原寸大のエジプトの彫像がはめ込まれて

いるだけでほかに観るものはない。

さらに30分ほど走って、保存状態がよいのでユネスコの遺産に指定されているアート

ベンハットに着いた。ここは要塞化された村「クサル」である。河に面した丘の斜面を

利用してつくられた村には壁がめぐらされていて外敵の侵入をこばんでいる。斜面に建

つ建物には穀物をたくわえる塔や銃眼がそなえられ、村のなかの道は迷路になっていて

難攻不落の要塞のようになっている。泥レンガの建物が傷んできたことと不便さをきら

って住民のほとんどが近くにある新しい村に移っているが、4、5軒のベルベル人家

族が残っていてみやげものを売っている。

体調の悪い人数人を入り口にあるレストランに残して現地に住むムサさんの案内で見物

に出かけた。河をわたり村の入り口に着くと、すぐに足場の悪い急斜面の道がはじまっ

た。炎天下の山登りはきつい。途中でよろけたらムサさんが後ろからささえてくれて丘

の中腹にあるムサさんの住いにたどりついた。泥レンガでつくられた建物の中は、入っ

たところから出るのかと思っていたら別の口から外に出るという間取りじたいが迷路の

ようになっている。この先はゆるい坂が折り返すようにつづいているので、なんとか一

人で頂上にたどりつくことができた。頂上には見張り塔をかねた穀物倉庫があるだけで、

360度の見晴らしはみごとなものだった。


街道沿いにあるレストランで昼食をすませ、マラケシュにむかって出発。途中アトラス

山脈の一部、標高2260メートルのティシュカ峠のひなびたCaf獅とみやげ物屋がある

ところ止まった。なにもないところだが、記念写真を写すために「ティシュカ峠標高

2260」と書いた大きな塔が立っているのが唯一の観光地らしさをみせていた。つぎ

に寄ったところはアルガンオイルの工場だ。アルガンオイルとはモロッコ中西部にしか

ないアルガンの木の実を搾取した油のことをいう。この油は食用になることはもちろん

美容に効果があるということで高価であるが世界中で人気があるそうだ。

さらに1時間ほど走って、崖沿いにあるながめの良いカフェでミントティーを飲みなが

らトイレタイム。

マラケシュが近くなってくると人家もふえてきて街らしくなってきた。

めずらしく明るいうちにマラケシュのモガドール・パレス・アブダルホテルに着いた。

部屋割りが終わると夕食時間までかなりの時間がある。フロントでタバコはないかと聞

くと、ここにはないが徒歩5分ほどにあるスーパーで売っているはずだと教えてくれた。

5分なら十分に時間があるとスーパーまで行くことにした。玄関を出るときに英語力に

不安があったのでそこにいたボーイにおなじことを聞くと、「あそこにはない。タバコ

がほしければホテルのシャトルバスに乗ってマラケシュの市街まで行け」といわれた。

さてどちらがほんとうだろうか。時間があるのでスーパーへ行くことにした。歩きはじ

めると5分なんてとんでもない。よたよた足でいそいでも10分かかった。着いてみる

と巨大なスーパーマーケットで、いわゆるアミューズメントストアーになっている。入

り口には屈強なガードマンが立っている。探す時間がおしいのでガードマン氏におそる

おそるタバコはどこで売っているかと聞くと、「ここにはタバコはない!」と語気鋭く

いわれてしまった。店内を見てみたかったが時間がないのでホテルにもどることにした。

このとき足に無理をかけたのがあとでたたることになるとはつゆしらず、まだ日が高い

道をホテルに向かってトボトボと歩き出した。


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