モロッコへいってきた
バスの窓から「砂漠の宿 2」
電話のベルで目が覚めた。
ねむれないと思っていたのに、いつの間にかねむってしまったようだ。同行のテバちゃん
が受話器を手にとると電話はきれていた。モーニング・コールは、Hさんが各部屋にかけ
ることになっている。部屋数が多いのでベルの音だけにしたのだろう。
テバちゃんはベッドに起き上がり、時計をみながら「わたしの時計とまっている」とあわ
てた声でいうので、まくらもとの時計をみると時計の針は1時40分を指している。念の
ため自分の腕時計をひっぱりだしてみるとやはり1時40分を指している。モーニング・
コールは3時のはずなのでおかしい。電話の故障?まちがい電話? いや、そうではない。
二人の頭におなじ考えがうかんだ。
夕方、クーラーのことで文句を言ったあげく、チップをわたさなかったのでいやがらせで
はないかと。お兄さんは、直してきたのに立て続けにこんどは添乗員から支配人へ苦情が
いった。そのうえオジサンから怒られたのだろう、などとふたりの空想はふくらんでいく。
不安になると考え方が短絡的になる。お兄さんをうたがっている。考えてみれば失礼な話
しである。そんな途方もない事を話し合ったあと、気持ちの悪さをのこしたまま、まだ時
間があるからと横になった。
ふたたび電話のベルで目が覚めた。興奮したわりにはねむってしまったようだ。時計をみ
ると3時10分、こんどこそ本物だ。3時40分の出発なので手早く支度をする。ろうか
に出ると真っ暗である。避難路を示す非常灯なんて気のきいたものはない。懐中電灯だけ
がたよりだ。階段を下り、ロビー棟に向かう通路に出ると前を行く人の懐中電灯の光が暗
やみにおどっている。うす暗いロビーに入るとほとんどのメンバーがそろっていた。怪電
話のことを口にする人はいない。このあと、われわれをまっている砂漠、ラクダ、砂丘の
日の出にこころがおどっているのだろう。時間になった。きのうと同じメンバーで分乗し
た4WDは、漆黒の闇のなか砂漠の舗装道路をラクダセンターへ向かって走り出した。
4時10分センター着。星明りひとつない暗やみのむこうでヘッドライトに浮かび上がる
ラクダがまっていた。 |