思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、過酷な旅から帰還のようです、エピソードその15。





モロッコへいってきた

バスの窓から「砂漠の宿 2」





電話のベルで目が覚めた。

ねむれないと思っていたのに、いつの間にかねむってしまったようだ。同行のテバちゃん

が受話器を手にとると電話はきれていた。モーニング・コールは、Hさんが各部屋にかけ

ることになっている。部屋数が多いのでベルの音だけにしたのだろう。

テバちゃんはベッドに起き上がり、時計をみながら「わたしの時計とまっている」とあわ

てた声でいうので、まくらもとの時計をみると時計の針は1時40分を指している。念の

ため自分の腕時計をひっぱりだしてみるとやはり1時40分を指している。モーニング・

コールは3時のはずなのでおかしい。電話の故障?まちがい電話? いや、そうではない。

二人の頭におなじ考えがうかんだ。

夕方、クーラーのことで文句を言ったあげく、チップをわたさなかったのでいやがらせで

はないかと。お兄さんは、直してきたのに立て続けにこんどは添乗員から支配人へ苦情が

いった。そのうえオジサンから怒られたのだろう、などとふたりの空想はふくらんでいく。

不安になると考え方が短絡的になる。お兄さんをうたがっている。考えてみれば失礼な話

しである。そんな途方もない事を話し合ったあと、気持ちの悪さをのこしたまま、まだ時

間があるからと横になった。


ふたたび電話のベルで目が覚めた。興奮したわりにはねむってしまったようだ。時計をみ

ると3時10分、こんどこそ本物だ。3時40分の出発なので手早く支度をする。ろうか

に出ると真っ暗である。避難路を示す非常灯なんて気のきいたものはない。懐中電灯だけ

がたよりだ。階段を下り、ロビー棟に向かう通路に出ると前を行く人の懐中電灯の光が暗

やみにおどっている。うす暗いロビーに入るとほとんどのメンバーがそろっていた。怪電

話のことを口にする人はいない。このあと、われわれをまっている砂漠、ラクダ、砂丘の

日の出にこころがおどっているのだろう。時間になった。きのうと同じメンバーで分乗し

た4WDは、漆黒の闇のなか砂漠の舗装道路をラクダセンターへ向かって走り出した。

4時10分センター着。星明りひとつない暗やみのむこうでヘッドライトに浮かび上がる

ラクダがまっていた。


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