●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、親の矜持を示しました(?)。



老いては子に従え!?


私、笑っちゃいました。

娘と待ち合わせて、あるイベントに行った時のこと。

1時間ぐらい電車に乗ってさらにバスに乗ってようやく会場に着いた。

目的の場所は3階である。

階段を上ろうとすると、階段下にあるトイレを目ざとく見つけた娘が、

「お母さん、トイレは?」

と聞くのである。

えっ、昔とまったく逆転ではないか。

娘が小さかった頃、私は出かけた先で、手をつないでいる娘によく聞いたものだ。

「アヤちゃん、トイレは?」

それが今や主語が変わっているのだ。

なんてこった!

老いては子に従え、という言葉があるが、いつのまにか娘は成長して、母を老いたもの

として気遣かっている。

私の気持ちはおおいに複雑である。

ああ、子供に心配されるようじゃ私もおしまいだ、という気持ち。

これならば安心して老いることができるぞ、という安堵感。

あんなに泣き虫の娘がこんな気配りのできる頼もしい存在になったんだという誇らしさ。

私はちょっと娘に反抗して

「ううん、いい、後にする」

というと、娘は

「あ、そ」

というとくるりと背を向け、さっさと先に階段を上っていった。


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