●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが見た世間の人々の諸事情(?)シリーズの9。



世間話シリーズ

「つくし」と「うらら」


首都圏にある私鉄沿線で急行も止まらず、10分も歩けばたちまち住宅街が広がる小

さなM駅。

繁華街とはいえないほどのささやかな駅周辺だが、夜ともなれば一応スナックや居酒

屋がポツリポツリと灯りを点す。

その中に「つくし」と「うらら」という名の居酒屋がある。

どちらもママが中年の女性で、こじんまりとしたアットホームな雰囲気がウリという

共通点の多い素人臭い店である。

だが、商売の戦略が大きく違う。それが運命を変えた。

「つくし」は細々ながら結構長いことつぶれずに営業を続けている。だが、「うらら」

の方はたったの2年で店を閉じてしまったのだ。

なぜか?

まず立地条件を比較すると、「つくし」は駅に近い横丁で人通りは多いのだが、小さ

なビルの2階なので目につきにくく、外階段を上らなければならない。

「うらら」は駅から5分ほど歩き外れだが、バス通りに面しており、しかも駅への通

り道にあたる1階の角地なので目立つ。

「つくし」の商法は常連客を増やすために、料理よりも客同士の交流を深めるよう努

力した。例えば、カラオケボックスの設置、定期的なゴルフコンペ、花見会を開くな

ど。つまり客の横のつながりをつくり、店に行けば顔見知りの誰かがいて、話ができ

るという風に勝手に客同士で盛り上がる。

ところが、「うらら」は料理に力を入れた。確かにリーゾナブルな値段で酒を飲みな

がらおいしい家庭料理に舌鼓をうてる。が、ただ、ママは料理を作るのに没頭してろ

くに話もできない有様だ。

居酒屋は酒の利益が大きい。酒は大いに飲んでもらわねばならない。料理に力を入れ

過ぎると働く割には利ざやが少なくなってしまう。

さらに必然的に客だねも違っていた。「つくし」は活発な、「うらら」はおとなしく

地味な、という風に。

この差は常連客獲得に歴然と現れてしまった。

ついに「うらら」は惜しまれながらも閉店することになった。採算が悪く、またママ

は疲れ果ててしまったのだった。

商売は難しい。地域性も良く調べ、居酒屋へくる客の種類、客は何を求めてくるか、

リピーターが多いか、合理的に儲かるか、こうした市場調査は欠かせない。さらに原

点には仕事と自分との相性が大切だ。


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