●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが見た世間の人々の諸事情(?)シリーズの2。
世間話シリーズ
売れた!
呉服を商売にしている元同級生の彼女からいつものおしゃべり電話がきた。
「あなた、私が新年会で着ていた着物を覚えている?」
「そりゃ、覚えているわよ。だってその着物姿であなたは踊りを披露してくれただんもの」
「それがね、つい最近、その着物を着てお得意さんのところへ行ったのよ。そしたら、それ
いい着物ねえ! ってとてもほめてくれたの。それで私すかさず、気に入ってくださったの
なら値引きしてお売りします、って言ったら、即、商談成立しちゃった」
「へえ〜それはよかったわねえ〜」
「まだあるのよ。今度は帯」
「あの黒い、粋な帯ね」
「そう。その帯絞めて別のお得意さんのところに行ったとき、何枚か反物を広げて見せてい
たら、お客さんが、この反物とあなたの絞めている帯とぴったりね、というのよ。またまた、
私は売ります、売ります、って言って、とうとう帯も売っちゃった」
「わ〜すごい! あなたは動くマネキンね!」
「そっ。私が着物を着た時は動く広告塔なの」
彼女はちょっと得意そうに言ってから、ここからが本題だと言わんばかりに声のトーンを変
えていった。
「だけどね、私を買おうという人は誰もでてこないのよ」
「当り前よ。誰があなたみたいに薹の立った女を買うもんですか」と私がずけずけいえば
「そりゃそうだ」とアハハと笑ってから、「お互いにね」と付け足すのも忘れない。
現役で商売している人はなんて頭の回転が速いんだろう。お見事というほかはない。家でボ
ーとしているのとは大違い。この差は大きいぞ。