●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、知り合った老人の別な技にも感心したようです。
90才現役 後日談
先日パンク修理をした自転車がとても快適になったので、数日後、再び隣のK駅へその
自転車に乗って用足しに出かけた。
あのおじいさんがいる自転車屋を通りかかると、なんとまた同じように“本日はお休み
します”の張り紙がしてあるので驚いた。
私はすぐははーんと気がついた。
おじいさんはずっとこの張り紙をつけっぱなしなのである。
つまり、年齢からして仕事が少ししんどくなっていて店じまいを考えているのだけれど、
まったく閉じてしまうのは寂しい、気の向いた時だけちょっとはやりたいのだ。私みた
いに声をかけて切羽詰まった客を見て、やる気がでたら仕事をしようという魂胆なのだ。
あのおじいさん、なかなか曲者でしたたかなのである。
“長生きも芸のうち”という言葉があるが、おじいさんにぴったりのような気がする。
人生にはトラブルがつきもので、そのトラブルをあらゆる知恵や才覚や手腕という芸を
使って上手に乗りこなして今がある。90才というおじいさんは存分にその芸を発揮し
て長生きなのである。伊達に年をとったのではない。
自転車屋のおじいさんは老人の立場を逆手にとって、わがままにやりやすいように工夫
して、自分の技術も生きがいも商売の誇りもそして生活の糧も捨てずにいるのである。
恐るべし、90才。