これじゃ手ぶらじゃけぇーられめぇ
見出しは、お富さんや切られ与三で知られる歌舞伎「與話情浮名横櫛」の中のせりふを
かりてきた。
あそび人与三郎は子分の手引きでゆすりに入ったが、子分ははした金であしらわられて
しまう。ゆすった相手がむかし自分をひどい目にあわせた女とわかり、もっと金が取れ
ると算段し「これじゃ一分じゃ帰(けぇ)ーられめぇ」と啖呵をきる名せりふである。
かたやこちらの与三郎がみつけたのは金目の女ではなく古本であった。
舞台は神田名物秋の古本市。ブックオフに毒されて古本市はごぶさたしていたので、本
をさがす目が遅くなっていた。むかしは露店一軒なら5分とかからずに欲しい本をみつ
けていたものだが、目がわるくなったこともかさなり一冊一冊を目でたしかめていく体
たらく。しかし、なれとはおそろしいものでやがて昔の勘がもどってきた。
するとどうなるか。つぎからつぎへとほしい本が目についてくる。はじめのうちは財布
と相談しながら買っていたが、そのうちに我慢できなくなってしまい、気がついたら両
手に本をぶらさげていた。
そりゃそうだろう猫にかつぶし男に女と、すきなものを目の前にぶらさげられちゃあが
まんがならねぇ。というわけでこの見出しになったというおそまつの一幕。 |