100円ライター
ふなれな街でタバコが吸いたくなった。喫煙所が見当たらない。しかたがないので近く
にあった喫茶店にとびこんだ。喫煙席にはいると壁側の席の両はじにオバサンと若い女
性がすわっている。迷うことなく若い女性の方へいき、ひとつテーブルをあけて座った。
さてコーヒーも来たしタバコを吸おうとしたらライターがない。出かけるときにポケッ
トに入れわすれたらしい。しかたがないのでライターを借りようと、となりのお嬢さん
に目をやると熱心に読書の最中だ。じゃまをしてはわるいと思ってあきらめようとした
がやはり吸いたい。
「すいません火をかしてください」というと読書の手をとめ「どうぞ」といやな顔もせ
ずにライターをさしだした。「ありがとう」とライターをかえすと「ここに置きますか
らつかってください」と、となりの空いたテーブルの角に置いた。タバコのみは一本で
はすまないのを知った心憎い親切である。ほんとうは読書のじゃまをされたくなかった
のかもしれないが、ゆきとどいた親切というものはうれしくなる。
貸してくれたライターの使い心地がよかったので「いいライターをお持ちですね」と言
おうと思ったがやたらに声をかけるのも失礼と思ってやめておいた。帰りに100円ショ
ップに寄ったらおなじものがあった。声をかけなくてよかった。
(写真は再現ですがライターはおなじもの) |