真夏の怪談話
じりじりと身を焦がすような炎暑が続いている。
夜になっても風は吹かないし、気温も下がらないで暑苦しい。
こんなときは怪談話のひとつも聞くに限る。
これはご近所のKさんちのおばあちゃんに聞いた本当の話。
おばあちゃんは89才。あまり動けないが、口は達者で話好き。最近、腎盂炎で入院し、
退院して来たばかりだ。
青々と茂ったハーブに囲まれた庭先で、私が町内会の回覧を持って行ったときに、夕涼み
をしているおばあちゃんから聞いた。
「つい最近、なんだかおしっこするときが痛くてね。そのうちだるくなって、それで病院
へ行ったのよ。そしたら即入院でね、その夜41度もの高い熱になっちゃってね、私は意
識を失ったみたいなの。ベッドのそばで家族が私を呼んでいるんだけど、それもふっと消
えてしまい、私はふらふらと宙をさまよっているような感じだった。
しばらくさまよっていたら、川っぷちに出て、バスが1台止まっているのよ。私はまたふ
らふらとそのバスの中に乗り込んだの。薄暗いバスには人が5〜6人いたと思う。みんな
青ざめていて表情がなく、まるで骸骨のようだったわ。中には白装束の人もいてなんだか
気味悪い。
席に座ってしばらくしたら、運転手みたいな男の人が降りろ、というの。その顔の怖いこ
とったら…般若みたい。私は言われたとおりによたよたと降りると、
バスは動き出して、川を渡りだしまもなく消えてしまった。
今思うと、あれが三途の川だったのねえ。
降ろされて良かった。もし、そのまま乗っていたらわたしゃ、あの世に逝っちゃったって
わけ。
今、思い出すとゾーッとするけど、死に損ないは長生きするっていうじゃない。あたしゃ、
もうしばらく生きられそうよ。
ただ面白かったのは、いまどき、三途の川は船で渡るのではなく、水陸両用のバスだった
ってこと」 |