●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが聞いた涼し気な話(?)。



真夏の怪談話


じりじりと身を焦がすような炎暑が続いている。

夜になっても風は吹かないし、気温も下がらないで暑苦しい。

こんなときは怪談話のひとつも聞くに限る。

これはご近所のKさんちのおばあちゃんに聞いた本当の話。

おばあちゃんは89才。あまり動けないが、口は達者で話好き。最近、腎盂炎で入院し、

退院して来たばかりだ。

青々と茂ったハーブに囲まれた庭先で、私が町内会の回覧を持って行ったときに、夕涼み

をしているおばあちゃんから聞いた。


「つい最近、なんだかおしっこするときが痛くてね。そのうちだるくなって、それで病院

へ行ったのよ。そしたら即入院でね、その夜41度もの高い熱になっちゃってね、私は意

識を失ったみたいなの。ベッドのそばで家族が私を呼んでいるんだけど、それもふっと消

えてしまい、私はふらふらと宙をさまよっているような感じだった。

しばらくさまよっていたら、川っぷちに出て、バスが1台止まっているのよ。私はまたふ

らふらとそのバスの中に乗り込んだの。薄暗いバスには人が5〜6人いたと思う。みんな

青ざめていて表情がなく、まるで骸骨のようだったわ。中には白装束の人もいてなんだか

気味悪い。

席に座ってしばらくしたら、運転手みたいな男の人が降りろ、というの。その顔の怖いこ

とったら…般若みたい。私は言われたとおりによたよたと降りると、

バスは動き出して、川を渡りだしまもなく消えてしまった。

今思うと、あれが三途の川だったのねえ。

降ろされて良かった。もし、そのまま乗っていたらわたしゃ、あの世に逝っちゃったって

わけ。

今、思い出すとゾーッとするけど、死に損ないは長生きするっていうじゃない。あたしゃ、

もうしばらく生きられそうよ。

ただ面白かったのは、いまどき、三途の川は船で渡るのではなく、水陸両用のバスだった

ってこと」


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