思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセー夫婦、フィレンツェを夕景から夜景まで楽しみました。



ボンジョルノ・イタリア(8)フィレンツェその2




革工房で解散したら、夕食のためにボンテベッキオ橋へ向かうことにしていた。Kさんに「バスの時間に

間に合わなかったらタクシーで帰りますからご心配なく。じゃあバスで」といって時間がおしいので真っ

先に飛び出した。革工房は入り組んだ道の奥にあった。来るときはシニョリーア広場から5分くらいだっ

たのでたかをくくって歩きだしたが道がわからない。お大師さまが「こっちよ」と自信をもって言う方に

歩いてみたがどうも様子がちがう。中世の街は数少ない大通りを除くと車一台がようやく通れるせまい道

がくねくねとつづいている。おまけに道路の両側には、4階建ての建物がつらなっているので空がせまい。

せめて太陽の位置がわかれば方角の見当がつくのだが。

二人で「あっちだ」「こっちだ」と言い合いながらせまい道を迷い歩いていて、ヨーロッパの人が広場や

公園を大事にする気持ちがわかった。一日中こんなせまくるしいところで生活をしていたら気がくるって

しまう。

10分ほどさ迷ってようやくシニョリーア広場に出た。ここまでくれば安心だ。ほかの自由行動組は、K

さんたちといっしょに5分たらずでシニョリーア広場に出た、とあとで聞いた。急いては事を仕損ずる、

とはこのことだ。


シニョリーア広場は、ヴェッキオ宮殿前の広場で旧市街のなかでは一番広い。周辺には有名なミケランジ

ェロのダビデ像をはじめ多くの彫刻がある。ただしこのダビデ像はレプリカだが。

広場の一角にある野外舞台にはみごとな彫刻がならんでいる。この舞台ではメディチ家の独裁以前は市の

式典がおこなわれていたそうだ。広場のまわりにはカフェやレストランがたちならび、お約束のメリーゴ

ーラウンドもあり、あちこちでパフォーマンスがおこなわれている。歩きつかれたのでカフェで一休みし

たいところだが食事まえなのでがまんする。野外舞台で彫刻とならんで腰をおろし、しばしのあいだ、夕

暮れの広場を見おろしながらシニョリーア広場の喧騒を楽しんだ。

ボンテベッキオ橋につくと橋の両側にならぶ貴金属店は昼間とちがって、照明に照らされた貴金属がより

重厚な雰囲気をつくっている。なかには早々と店を閉めているところがある。昼間みたとき、露店に毛の

生えたような粗末な作りの店で高価なものをあつかい、どんな戸締りをするのかと心配していたが謎がと

けた。それはまるで中世の城門のように頑丈につくられていた。

橋をわたると右手には川にそった道にレストランがならんでいる。夕暮れの河をながめながらワインを飲

む。そんなイメージできてみたが川沿いのレストランはどこも高そう。財布と相談して川と反対がわの店

に入ることにした。路上におかれた席はいっぱいなので店内にはいり道路に面した席にすわった。ここは

道路よりいちだん高くなっているので気持ちが良い。白ワインのハーフボトルにマッシュルームピザとサ

ラダをたのむ。ほんとうはもっといろいろ食べたいのだが量が多くて二人では食べきれない。しばらくす

ると隣の席に二人連れの老婦人が座った。彼女らはワインのボトルと山盛りの料理を注文した。テーブル

いっぱいに並んだ料理を絶え間ないおしゃべりとともにきれいにたいらげてさっさと帰ってしまった。も

ちろんワインも空っぽ。感心するほどよく飲み、よく食べる。話す英語の感じではイギリス人とアメリカ

人らしい。どちらも地元に住んでいるのだろう。世間話にきたようだ。

ときたまわかる言葉でこちらがクスッとすると笑顔をむけてくれた。話しかけられたらどうしようとびく

びくしていたが自分たちの話しにいそがしく、ほっておかれて一安心。地元の人の仲間入りができたよう

でうれしくなり、追加したカプチーノを飲みながらゆったりとフィレンツェの夜にひたった。

店を出て、上流のサンタトリニタ橋の上からライトアップされたボンテベッキオ橋の写真を写しながらき

れいな夜景に見惚れる。立ち去り難いけどバスの時間もあるので目印のドウオモに向かって歩き出す。歩

く道はフィレンツェ一の繁華街。高級な店がつらなる通りは日本でいえば銀座通り。店の中に入るわけで

はないがしゃれたショウウィンドウを見て歩くだけでもたのしい。


夜は景色を変える。建物のあいだから見え始めたドウオモは、陽の光で見るのとちがった幽玄な姿をみせ

ている。近くに行くとライトアップされた聖堂が美しい。ドウオモを背にして歩き出すと駅に向かう三叉

路はすぐにみつかった。地図によれば歩いて5〜6分の距離だ。さきほどとは打って変った庶民的な商店

街を歩く。今夜のビールを買わなければならない。おおきな酒屋があったのでラッキーとばかりにとびこ

んだらワインだけでビールはない。商店街もあとわずか、そのさきには薄暗い駅の広場が広がっている。

この時間ではホテル裏のスーパーも閉まっている。半分あきらめかけたときに、暗やみの中に煌煌と灯り

をつけたキオスクをみつけた。あった!ここでビールを三本買って駅前の緑のマックへむかう。ところが

約束の時間の5分前だというのに誰もいない。風をよけて場所を変えているのかと思ってあちこち探して

もそれらしい人影もバスも見えない。約束の時間を10分すぎたのでタクシーで帰ろうかと言いだしたと

ころに広い道路向こうからKさんが息せき切って走ってきた。「場所、ここでいいんですよね!」という

と「みなさん食事の後疲れて歩けなくなり早めにきりあげたんです。2組は先に帰り、1組は遅くなると

いうので早めにバスを呼んで、ここには長く止められないので場所をかえたんです。ごめんなさい」とあ

やまられた。「いつも集合時間に遅れてKさんをやきもきさせたから迎えにこないのかと思った」とKさ

んをからかった。

ホテルに着いた。「おつかれさん」と三々五々別れていくなかでお大師さまが「カードがない」と言いだ

した。カードキーを失くしたか部屋におきわすれたらしい。Kさんに話すとツァーの一員なので簡単に再

発行してくれた。部屋にはちゃんとカードキーが待っていた。

明日は、ヴェネツィアに向けて出発だ。荷物を整理したあときょうも予想外に汗をかいたので思い切って

アンダーシャツを洗ってしまった。室温22℃湿度45%明日までに乾くだろう。順番に風呂に入りビー

ルで乾杯、おつかれさん!飲み終わるとお大師さまは早々と寝てしまった。

一時間くらいテレビを見て寝る。目が覚めればヴェネツィアだ。


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