●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、友人のこころを感じました。



手紙


一通の手紙を受け取った。

以前海外旅行ツアーで知り合った旅友で、去年2月にご主人を亡くされたAさんからだ

った。

Aさん夫妻とは旅行中気が合って、その後の旅行はもちろん、ゴルフなど家族ぐるみの

つきあいになったのだが、Aさんが病気になってからは疎遠になっていた。

私は急いで封を開けると、印刷のハガキと手書きの私信が入っていた。

まあ、ご丁寧に…と思いながら読むと、活字のハガキは、ご主人の一周忌法要を済ませ

た報告で当り障りがない。ところが手紙の方は、なぜこのハガキを送るかのいきさつが

書いてあった。

それが奮っている。

それによると、Aさんは親しい友人に一周忌の挨拶状を送り、ご主人の遺影に向かって

話しかけていたら、ケロンパにも出すように、というお告げがあったというのである。

ケロンパとは私のあだ名。笑わせ上手のご主人だったので、私はいつも大口を開けて笑

っていたようで、その笑い顔がタレントのうつみみどりに似ているというのでご主人が

つけたものだ。

お告げがあったと表現するAさんに私は驚き、こうして実行に移してくれたことにすっ

かり感動してしまった。

こんな光栄なことはない。

くだけていえば、この手紙は「私はこのハガキをあなたに出す気はなかったけど、夫の

遺影と話していたら、あなたにも出すように言われ、送るのでよろしく」というものだ。

なんと真っ正直でも物事を真摯に対処する人だろう。女性って、表面的につくろってし

まう人が多いのだが、こういうの、私好きだなあ。

裏返せば、Aさんはまだご主人との思い出の中に居て、遺影との対話が続いているのだ

ろう。そうでなければお告げなんて聞くことはない。

そのとき、花を散らす一陣の風が吹いて手紙が揺れた。

私にふと、妄想のようなひとつの物語が浮かぶ。

一人の男を巡って女二人が張り合ったが、当の男は死んでしまい、残された女たちは結

局厚い友情で手を結ぶ…なんだかありふれたストーリーだけど、ぽっと心が熱くなる。

一通の手紙が、忘れかけた過去のAさん夫妻との楽しかった交流をしっかり人生の豊か

な一コマとして刻んでくれた。

人生捨てたものではない。


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