思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセー夫婦、おどされながらタバコ買ったりなんかしつつ歩きました。



ボンジョルノ・イタリア(7)フィレンツェその1






「イタロ号」は、定刻どおりフィレンツのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅についた。

バスで15分ほどのところにあるホテルは、アメリカ資本のチェーンホテル「スターホテル・タスカニー」。

おなじスターのつくホテルがいくつかあるので間違わないようにしてください、と注意された。

部屋割りをまちがえたのではないかと思うくらいの広い部屋は、最近の海外旅行で泊まったどこのホテルよ

りもすばらしい。なによりもありがたかったのは、喫煙可の部屋であったこと。うっかりするとアメリカ系

のホテルでは禁煙室でタバコを吸うと罰金をとられる。しかし、貧乏性というものはこまったもので部屋が

良すぎておちつかない。部屋でゆっくりすればいいのに食事まで時間があるからとホテルのすぐ裏にあるス

ーパーマーケットへでかけた。海外のスーパーの生鮮食品や日用品は、その国の特徴がでていて、部屋で調

理ができるのなら買って帰りたいものばかりだが見ているだけでも楽しい。


10月5日。6時15分に起きる。外はまだ暗い。7時頃明るくなるというか日の出だ。

朝食をすませ、出発まで時間があるので近所を散歩する。のんびりと異人さんの出勤風景をながめているの

もわるくない。タバッキー、すなわちタバコ屋さんで軽食を食べている人も多い。ここのタバコ屋はなんで

も屋でもあるようだ。

集合時間にロビーへ行くとオプションでピサの斜塔へ行く人たちはとっくに出発していた。のんびりとフィ

レンツェ市内を観光する人だけが集まったら、たったの6人。みな年寄りばかりだった。市内へはKさんの

案内でホテルの前から路線バスで行く。

バス停に行くと土地の人の出勤時間とかちあい満員のバスを一台見送る。バスは10分間隔だというのにな

かなか来ない。「Kさん、ほんとうに10分間隔」なんて軽口をたたいているとバスがきた。これもかなり

混んでいたが、いくら待ってもしょうがないので皆さん現役時代を思いだして満員電車に乗る要領で乗り込

んだ。外国のバスはどうお金を払っていいのかわからないので乗り方がむずかしい。きょうはKさんにまか

せてあるし、降りるところが終点なので安心だ。


フィレンツェという所は、ドウオモとよばれるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂とメェディチ家の

遺産でなりたっているような街だ。

ドウオモ前の広場で解散。2時の集合時間まで3時間半ある。ドウオモとウッフィッツイ美術館は、午後ピ

サの斜塔組と合流して見学するので、とりあえず旧メェディチ家館へ行くことにした。 

途中タバッキーを見つけた。いままで見たなかでは一番大きく立派な店だ。なかへ入ってローマで買ったも

のとちがう銘柄を買いたいのだが発音がわからずに迷っていたら、いかつい大柄の老人がニコリともしない

で「どれにするのか?」というふうに声をかけてきた。あまりの迫力にまけてしまい、唯一発音のできるロ

ーマで買った「HB」といった。するとおじさんは、にこりともしないで3種のHBをゆびさしてまくした

てた。なにをいわれているのかわからず恐怖のあまりローマで買ったのと同じ色の箱をゆびさして無事おわ

った。こわかった。あとで考えたらニコチンの量を聞かれたのだ。日本では当たり前のことなのにひたすら

恐怖から逃れるためにあわててしまった。そのあとに水を買いに入ったお大師さまもこわい思いをしたそう

だ。それは本人のことではなく、お大師さまの前に買い物をした客が払った札を明かりにすかして偽札でも

みるようにしていたそうだ。なんにしてもおっかないおじさんだった。

ほうほうの体でタバッキーを逃げ出してはす向かいにある旧メェディチ家館に入った。メェディチの名に期

待して入館料一人7ユーロという安くない金を払って入った館内はさびれていて期待外れ。それでも絵画や

建物の造作、特に中庭に往時の栄華がしのばれた。予想外の陽気で汗をかき、もってきたシャツがたりなく

なったのでミュージアムショップでTシャツを買うことにした。お大師さまとあれこれサイズを選んでいる

と親切な女店員でてきてシャツを体にあててくれて選んでくれた。なにかいいことがあるものだ。

旧メェディチ家館をあとにしてボンテベッキオ橋に向かって歩き出す。入り組んだ道ではあるが上を向いて

メェディチ家専用の回廊をたどれば迷わない。とにかく庶民とおなじところを歩くのがいやで専用の高架通

路を作ったのだからすごい。

橋の両側にならぶ貴金属店をのぞきながら橋を渡ると時間は12時をすぎていた。おひるを食べようと店を

のぞくとどの店も美味しそうだがけっこう高い。迷っているとピザ一枚15ユーロという看板をみつけた。

値段に負けてまだ客のいないテラスの席についた。ビールとピザ、食後にカプチーノをたのむ。担当のウェ

イターはハッサン君。なかなかあいそがいいしわかりやすい英語をはなしてくれる。でてきたピザは他のイ

タリア料理店とちがって生地がパリパリしていておいしい。店は丘の上にある住宅街の入り口に面していて、

日差しをあびながら道行く人をながめていると幸せな気分になる。

店を出るときに気がついたがこの店はインド料理屋だった。だからハッサン、どうりでピザの生地がちがう

わけだ。

帰りは上流にあるサンタトリニタ橋のうえからボンテベッキオ橋をながめ、ぶらぶら歩いて集合場所のドウ

オモ広場に向かった。集合場所にはピサの斜塔組がもどっていた。カメラを通じて仲のよくなっていた新婚

さんに「ピサの塔は曲がっていた」と聞くとニコニコしながら「曲がっていました」と答えた。

全員がそろったところで、ドウオモを見学する。十字の形をした巨大な身廊に圧倒されてしまい、天井のフ

レスコ画も、飾られている著名な絵画も印象にのこらないまま外にでてしまった。

ドウオモのつぎはウッフィッツイ美術館の見学だ。ここはメェディチ家のオフィス跡で同家のコレクション

で満たされている。美術館はさすがに混んでいて15分ほど待たされる。セキュリティチェックを受けて中

に入ると入り口は4階だそうだ。エレベータが小さいため50才以上はエレベータ、その他は階段で入り口

に向かうようにいわれた。4階といっても天井が高いので普通のビルの6階分の高さがある。年寄りである

ことに感謝した。

展示されているルネッサンス芸術のかずかずは、日本で展示したら大行列はまちがいなしのものばかりだが、

この時代の絵画、彫刻に興味のないシャンさんには猫に小判であった。建物もヨーロッパの宮殿スタイルな

ので、ああ、ここもか!という感じで見おわった。興味のないということは、なんともったいないことか。

美術館を出て曲がりくねった道を歩いて革工房へ。子供だましのような金箔貼り実演を見物する。

革工房を出たところで、Kさんから「8時30分サンタ・マリア・ノヴェッラ駅前のマクドナルドに集合。

ここのマックは赤ではなく緑ですから間違えないようにしてください。そこにホテルのバスが迎えに来ます。

夜食を一緒に食べる方は私と行きましょう」と説明があって後は自由行動。


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